~いくじなし~■アースダンボールメルマガVOL219■2024年11月号-2
正式な恋人同士じゃない。
ペンフレンドでもない。
告白すらしていない。
言ってしまえば只のクラスメイト。
でも二人の気持ちは決まっている。
そんな二人が遠距離になったらどうすればいいんだ?
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
****************************
俺は諸田恭介(もろだきょうすけ)39歳。
急な転勤で引っ越さなければならなくなった。しかも来週に。
引越し準備でバタバタの中だけど、俺達夫婦には気がかりが一つある。
中学2年生の娘の事だ。
好きな男子が居るらしい、そしてその男子も娘が好きらしい。
でも告白はまだのようだ。
親が気にする事じゃない。そう思う人も多いだろう。
でも、どうしても心配してしまう理由がある。
俺は引越し準備のダンボール箱を見てフッとため息をついた。
あれは俺達夫婦が今の娘と同じ、中学2年生の頃だった。
俺と妻の与里子(よりこ)は当時、同じ陸上部で家も近所。
一緒に部活で汗を流し、一緒に帰る。
そんな毎日を過ごしたけど、二人の恋が進展する事は無かった。
恋、と言ったけど、二人は互いに好きだとわかってた。
でもどちらにも、いや違う、俺にだ、俺に告白する勇気が無かったんだ。
明日は言おう、今日言おう、絶対言うぞ、次こそ…!
そんな日を繰り返すうちに、それは突然やって来た。
与里子が親の転勤で、翌週末に急に引越す事になった。
しかもかなり遠方だ。
与里子自身も急に慌ただしくなり、もう告白どころの雰囲気じゃなくなった。
そして何もできないまま引越し当日を迎えてしまった。
出発の時間、与里子の家には他の友人や近所の人も見送りに来ていて、
もう与里子と二人きりになるタイミングを作るなんて不可能だった。
「さよなら、元気で」
「うん、諸田くんも元気でね」
そして荷物を積んだトラックが先に出発し、
与里子と家族の乗った車も出発してしまった。
(ああもう!!なんでだ!!なんで何もしなかった!?俺は!!)
俺はだんだん離れていく車から目を逸らしてしまった。
すると逸らした視線の先、与里子の家の縁側に、
一抱え程の大きさのダンボール箱が置いてある事に気が付いた。
忘れもの…?
なんだ?軽いけど確かに何かが入ってる…
俺は咄嗟にそのダンボール箱を持って車に向かって走り出した。
(あの角を曲がる前ならまだ間に合う!!)
もう一度、もう一度最後に与里子に会える。
顔を見れる、声を掛けられる!
家族が居たって構わない、告白してやる!
あわよくば…
そんなゲスい考えが俺の頭の中には渦巻いていた。
すると俺に気付いた車が、俺の50メートルくらい先で止まった。
やったぞ、止まってくれた、ダンボール渡せる!
でも、俺のそんなあさはかな考えを神様は見透かしていた。
止まった車の後部座席の窓が開き、与里子が顔を出した。
「これ!忘れもんじゃない!?」
俺は与里子に向かって叫んだ。
でも与里子はこう返してきた。
「もう!箱に気付くの早すぎー!!ばかー!!
もうそれ要らない!やっぱ要るー!、
だからそれ預かっとけー!!
もう顔ボロボロなんだからこっち来んなー!
いくじなしー!ばかー!」
俺はただ立ち止まり、黙って与里子の叫びを聞いていた。
そして与里子渾身の叫びの全てを理解した。
そうだよ、俺はやっちまったんだ、今はもう動けない…
車は再び走り出し、角を曲がって見えなくなった。
________
そのダンボール箱は出発後に俺が気づくように、
俺のすぐ近くに与里子がしれっと置いたものだった。
そしてダンボール箱の中身は…
与里子が命の次に大事にいしていたぬいぐるみだった。
そんな大事な物を預かれと、与里子は俺に言ったんだ。
そして走り書きのメモには
"諸田くんのばか!これ預かっとけ!"
と書かれていた。
「ここでも "ばか" かよ…」
でも確かに、俺はばかだ、大ばかだ。
それから俺は、あまりにも大き過ぎるこの後悔と、
こんなに好きなのになぜ離れ離れになってしまったのか?
その意味と向き合い続けた。
そして少しでも早く自分の生活を築く為に、
高校卒業後は大学へは行かずに就職して家を出て、
やっと与里子を迎えに行った。与里子も俺を待ってくれていた。
こうして俺達は結婚したんだ。
正式な恋人同士じゃない。
ペンフレンドでもない。
告白すらしていない。
言ってしまえば只のクラスメイト。
でも二人の気持ちは決まっている。
そんな二人が遠距離になったらどうすればいいんだ?
あのダンボール箱とぬいぐるみが無くても、
俺は頑張り切れたと思う、いや、やっぱり厳しかったか…
いずれにしても、あれが支えになってくれたんだ。
もちろん、あの後すぐ、俺もあのぬいぐるみと同じ価値の物を、
ダンボール箱に詰めて与里子に送りつけてやったから、
会えない間も、俺達は同じものを見ながら繋がってたんだ。
だからといって同じ事を娘に勧めるつもりは無い。
むしろお勧めできない作戦だし、それは妻も同じ想いだ。
だからとにかく、もうどっちでもいいから、
とっとと告白しちまえっての!!
後は野となれ山となれだ!!
…でもやっぱりそれはちょっと親として無責任すぎるか…
念の為、万が一の為、ダンボール用意しとくか…
FIN
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
****************************
あ と が き
言いたくて言いたくて、でも言えなくて、
いつか言おうと思っていたのに、
突然、もう2度と言えなくなってしまう。
かと思えば、
絶対に言わないと決めていたのに、
何年も後になって言わざるをえなくなってしまう。
そんな時もありますよね。
不思議ですよね。
なぜか上手くいかない時も多いですよね。
人は何故、伝えたくなるのでしょう?
人は何故、伝えたくなくなるのでしょう?
どちらも、"一人じゃない" って事なのかもしれませんね。
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
****************************
あ と が き
言いたくて言いたくて、でも言えなくて、
いつか言おうと思っていたのに、
突然、もう2度と言えなくなってしまう。
かと思えば、
絶対に言わないと決めていたのに、
何年も後になって言わざるをえなくなってしまう。
そんな時もありますよね。
不思議ですよね。
なぜか上手くいかない時も多いですよね。
人は何故、伝えたくなるのでしょう?
人は何故、伝えたくなくなるのでしょう?
どちらも、"一人じゃない" って事なのかもしれませんね。
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド

















