~お嫁さん、お届けします~■アースダンボールメルマガVOL220■2025年12月号
俺は果報者だよ。
誰かの人生の出発に2度も立ち会えるなんてさ。
特に2度目は格別だったよ。
今度こそ、今度こそは…
そう願わずにいられなかった。
俺は、あいつらのそんな再出発に立ち会えたんだ。
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
****************************
俺は真田流星(さなだりゅうせい)42歳。
ダンボール製造会社で働いている。
そして同期の楠篤人(くすのきあつひと)と北見紬(きたみつむぎ)、
この二人の最初の出発に立ち会ったのは、今から15年前だ。
俺と楠は男同士という事もあって入社してすぐに仲良くなり、
いつしか親友にもなった。
そして先に仕掛けたのは楠だった。
それは入社して2年が過ぎた頃だった。
「なあ真田、北見さんて本当に付き合ってる人居ないんかな~?」
「居ないらしいけど、って、え!?おま、北見さん狙ってるの?」
「ま~、な…」
「うっわ!北見さん狙ってる奴なんていっぱい居るぜ…」
「だよな~…」
北見紬は誰もが認める社内人気ナンバーワンで、
狙ってる奴の噂がついぞ絶えなかった。
だがそこは友人の為、俺が一肌ぬいだるわ!
とダメ元で企画した同期会(の"てい")の飲み会に、北見紬も参加してくれた。
そして奇跡は起こった…
北見紬も楠の事が気になっていたというじゃないか!
あの時は本当に自分の事みたいに嬉しかったぜ!
"俺、モってる!!" 本当にそう思ったよ。
その2年後に二人は結婚。
披露宴にはうちの会社のお偉いさん達も沢山出席したがそれだけじゃない。
ダンボール会社の縁らしく、ダンボールを使って何かやろうと友人達が画策し、
特別製のダンボール箱を作る事になった。
どんなダンボール箱かというと…
場は披露宴、間もなく友人達の寸劇が始まるというのに、
高砂には北見(新婦)の姿が無い…いい感じに怪しさ満点だ。
会場内の照明が落ち、宅配便のスタッフに扮した友人が、
大きなダンボール箱を積んだ台車をコロコロ転がしながら、
ワザとらしく高砂の楠(新郎)の前にやって来た。
「あ、楠さんにお届け物で~す、ハンコ下さい、サインでもOKっす」
もうこの時点で出席者の誰もがオチに気付く。
楠が箱を開けると中身は想像通り、ドレス姿の北見だった。
このタイミングで西野カナの "あの曲" が流れ始め、
友人達が "北見紬の取り扱い説明書" を一読し、楠に手渡した。
会場は大いに盛り上がった。
そしてラスト、ダンボールの搬出時に配達員が箱をひょいと持ち上げ、
箱の底面を招待客に見せると、そこには "返品不可" の印刷文字!!
再び会場内は大爆笑と拍手に包まれた。
良い式だった。
心に残る、本当に良い式だったのに…
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
****************************
あれから15年、二人の仲はすっかり冷めきっていた。
会話は最低限の業務連絡程度、食事の時間も寝室も別々らしい。
確かに珍しい事じゃない、でも俺の心は切なかった。
そしてそんな中で楠に下された癌宣告、ステージ2。
楠は離婚を決めた。
「真田、頼む、俺の体の事は紬には言わないでくれ」
「言わないでくれってお前、だって…」
「俺は"子供が欲しい"っていう紬の夢を叶えてやれなかった。
その上、癌の夫の面倒を見るなんて酷すぎる。
でも幸い、ああ、この場合は幸いって言っていいと思う、
俺達に子供は居ない、夫婦仲も冷めている、
紬も離婚には同意してくれるさ」。
俺は楠の頼む通りに、ただ二人を見守った。
やがて離婚が成立し、紬は北見の姓に戻り、実家に帰った。
その後、離婚を待っていたかのように楠の体は悪化し、入院。
俺は紬に真実を伝えるべきか、ずっと迷っていた。
________
それから1ヶ月が経とうしていていた頃、
紬が突然、鬼の形相で俺の元へやって来た。
「真田くん、なんで教えてくれなかったの!?
もうホントに信じられない!!なんでよ?どうしてよ!?」
「ごめん、あいつがどうしても黙ってろって…」
紬はくしゃくしゃに泣き崩れた顔を手で覆いながら、切ない視線を俺に向けていた。
そして少し落ち着いた頃、再び口を開いた。
「ごめんなさい、真田くんのせいじゃない。
全部私のせい、あの人の体の異変にも気づけなかったなんて。
私達、ううん、私、どれだけあの人と向き合えてなかったんだろう」
紬は続けて言った。
「真田くん、お願い、力を貸して、私やり直したいの」
俺の気持ちは100%同意だった。あいつがなんて言おうと紬に協力する。
そして俺と紬、+アルファは作戦を練った。
あいつに再び紬と向き合う気持ちを呼び起こさせ、
且つ、絶対に紬に逆らえない状況も作り出す方法は、普通のやり方じゃダメだ。
やっぱりあれしかない…
俺達はあの披露宴に出席してくれた当時の仲間を呼び集め、
入院中の病院にも事情を説明して協力を得た。
_____________
決行の日。
俺は病室のベッドのわきに座り、楠と談笑を始めた。
調子はまあまあ良さそうだ。
次に担当医と看護婦さんが「調子はどうですか?」としれっと入って来て、
担当医は少しだけ楠の様子を確認し、俺に目配せした。
"よし、担当医からのGOサイン出たぜ!"
するとぞろぞろと、次々に病室に入るあの時のメンバー達…
「おいおいおい、何だよみんな、それにこの顔ぶれは…」
「よお、見舞いに来たぞ、意外と元気そうだな」
「元気って…おい、やっぱり変だぞ、このメンバーは…
あ、そうか、俺もうすぐ死ぬのか、だからみんな…」
すかさず配達員の登場だ。
「楠さ~ん、お届け物で~す」
しかもなかなか芸が細かい!箱も台車も衣装も全てあの時と同じだ。
「お届けって…これあの時の…今度は誰が入ってるんだよ…」
「自分で開けて確認してみろよ…」
楠はゆっくりとふたを開けた。
するとそこにはウェディングドレス!はさすがにできず私服だったが、
もう一切のフォローが不可能な程、既に涙でぐしゃぐしゃ顔の紬が
体育座りをしながら顔だけはしっかり上げて、佇(たたず)んでいた。
紬の手には紬と、二人分の証人欄もサイン済の婚姻届けが握られていた。
紬はそれをゆっくりと楠に手渡し、こう言った。
「ここにサインして」
楠はここに居る全員の顔をゆっくりと見回して呟いた。
「そういう事か…」
全員が楠の次の言葉を待った。
「因みに、ダンボール箱の底、見せてくれないか」
「ああ?底はお前が抵抗した時用に…まあいい、ほれ!」
"強 制 送 還 今度こそ 返 品 不 可"
「なるほど実家から強制送還か、なら居場所が必要か」
「で、文句はないな、楠、」
「文句も何も、こんな病人に逆らえる力なんてあるかよ」
楠の苦笑いが笑顔に変わった。
紬は箱の中で立ち上がり、少しやせた楠の体を抱きしめた。
「あなた、生きるわよ、今度こそ一緒に」
FIN
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
****************************
あ と が き
いつもそばに居るのに、
いつも隣に居るのに、
何を考えているのかわからない。
大きな変化にも気づけなかった。
そんな経験はありますか?
逆に遠く離れていても、
分かり合えた、通じ合えた、
そんな経験はどうですか?
誰かと分かり合えた時の嬉しさ、喜び、
まるで魂同志で共鳴し合っている様な、震える様な感覚。
時には、もういつ死んでもいいとさえ思えてしまう。
そんな経験、生きているうちにあと何回できるかな。
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
****************************
俺は真田流星(さなだりゅうせい)42歳。
ダンボール製造会社で働いている。
そして同期の楠篤人(くすのきあつひと)と北見紬(きたみつむぎ)、
この二人の最初の出発に立ち会ったのは、今から15年前だ。
俺と楠は男同士という事もあって入社してすぐに仲良くなり、
いつしか親友にもなった。
そして先に仕掛けたのは楠だった。
それは入社して2年が過ぎた頃だった。
「なあ真田、北見さんて本当に付き合ってる人居ないんかな~?」
「居ないらしいけど、って、え!?おま、北見さん狙ってるの?」
「ま~、な…」
「うっわ!北見さん狙ってる奴なんていっぱい居るぜ…」
「だよな~…」
北見紬は誰もが認める社内人気ナンバーワンで、
狙ってる奴の噂がついぞ絶えなかった。
だがそこは友人の為、俺が一肌ぬいだるわ!
とダメ元で企画した同期会(の"てい")の飲み会に、北見紬も参加してくれた。
そして奇跡は起こった…
北見紬も楠の事が気になっていたというじゃないか!
あの時は本当に自分の事みたいに嬉しかったぜ!
"俺、モってる!!" 本当にそう思ったよ。
その2年後に二人は結婚。
披露宴にはうちの会社のお偉いさん達も沢山出席したがそれだけじゃない。
ダンボール会社の縁らしく、ダンボールを使って何かやろうと友人達が画策し、
特別製のダンボール箱を作る事になった。
どんなダンボール箱かというと…
場は披露宴、間もなく友人達の寸劇が始まるというのに、
高砂には北見(新婦)の姿が無い…いい感じに怪しさ満点だ。
会場内の照明が落ち、宅配便のスタッフに扮した友人が、
大きなダンボール箱を積んだ台車をコロコロ転がしながら、
ワザとらしく高砂の楠(新郎)の前にやって来た。
「あ、楠さんにお届け物で~す、ハンコ下さい、サインでもOKっす」
もうこの時点で出席者の誰もがオチに気付く。
楠が箱を開けると中身は想像通り、ドレス姿の北見だった。
このタイミングで西野カナの "あの曲" が流れ始め、
友人達が "北見紬の取り扱い説明書" を一読し、楠に手渡した。
会場は大いに盛り上がった。
そしてラスト、ダンボールの搬出時に配達員が箱をひょいと持ち上げ、
箱の底面を招待客に見せると、そこには "返品不可" の印刷文字!!
再び会場内は大爆笑と拍手に包まれた。
良い式だった。
心に残る、本当に良い式だったのに…
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
****************************
あれから15年、二人の仲はすっかり冷めきっていた。
会話は最低限の業務連絡程度、食事の時間も寝室も別々らしい。
確かに珍しい事じゃない、でも俺の心は切なかった。
そしてそんな中で楠に下された癌宣告、ステージ2。
楠は離婚を決めた。
「真田、頼む、俺の体の事は紬には言わないでくれ」
「言わないでくれってお前、だって…」
「俺は"子供が欲しい"っていう紬の夢を叶えてやれなかった。
その上、癌の夫の面倒を見るなんて酷すぎる。
でも幸い、ああ、この場合は幸いって言っていいと思う、
俺達に子供は居ない、夫婦仲も冷めている、
紬も離婚には同意してくれるさ」。
俺は楠の頼む通りに、ただ二人を見守った。
やがて離婚が成立し、紬は北見の姓に戻り、実家に帰った。
その後、離婚を待っていたかのように楠の体は悪化し、入院。
俺は紬に真実を伝えるべきか、ずっと迷っていた。
________
それから1ヶ月が経とうしていていた頃、
紬が突然、鬼の形相で俺の元へやって来た。
「真田くん、なんで教えてくれなかったの!?
もうホントに信じられない!!なんでよ?どうしてよ!?」
「ごめん、あいつがどうしても黙ってろって…」
紬はくしゃくしゃに泣き崩れた顔を手で覆いながら、切ない視線を俺に向けていた。
そして少し落ち着いた頃、再び口を開いた。
「ごめんなさい、真田くんのせいじゃない。
全部私のせい、あの人の体の異変にも気づけなかったなんて。
私達、ううん、私、どれだけあの人と向き合えてなかったんだろう」
紬は続けて言った。
「真田くん、お願い、力を貸して、私やり直したいの」
俺の気持ちは100%同意だった。あいつがなんて言おうと紬に協力する。
そして俺と紬、+アルファは作戦を練った。
あいつに再び紬と向き合う気持ちを呼び起こさせ、
且つ、絶対に紬に逆らえない状況も作り出す方法は、普通のやり方じゃダメだ。
やっぱりあれしかない…
俺達はあの披露宴に出席してくれた当時の仲間を呼び集め、
入院中の病院にも事情を説明して協力を得た。
_____________
決行の日。
俺は病室のベッドのわきに座り、楠と談笑を始めた。
調子はまあまあ良さそうだ。
次に担当医と看護婦さんが「調子はどうですか?」としれっと入って来て、
担当医は少しだけ楠の様子を確認し、俺に目配せした。
"よし、担当医からのGOサイン出たぜ!"
するとぞろぞろと、次々に病室に入るあの時のメンバー達…
「おいおいおい、何だよみんな、それにこの顔ぶれは…」
「よお、見舞いに来たぞ、意外と元気そうだな」
「元気って…おい、やっぱり変だぞ、このメンバーは…
あ、そうか、俺もうすぐ死ぬのか、だからみんな…」
すかさず配達員の登場だ。
「楠さ~ん、お届け物で~す」
しかもなかなか芸が細かい!箱も台車も衣装も全てあの時と同じだ。
「お届けって…これあの時の…今度は誰が入ってるんだよ…」
「自分で開けて確認してみろよ…」
楠はゆっくりとふたを開けた。
するとそこにはウェディングドレス!はさすがにできず私服だったが、
もう一切のフォローが不可能な程、既に涙でぐしゃぐしゃ顔の紬が
体育座りをしながら顔だけはしっかり上げて、佇(たたず)んでいた。
紬の手には紬と、二人分の証人欄もサイン済の婚姻届けが握られていた。
紬はそれをゆっくりと楠に手渡し、こう言った。
「ここにサインして」
楠はここに居る全員の顔をゆっくりと見回して呟いた。
「そういう事か…」
全員が楠の次の言葉を待った。
「因みに、ダンボール箱の底、見せてくれないか」
「ああ?底はお前が抵抗した時用に…まあいい、ほれ!」
"強 制 送 還 今度こそ 返 品 不 可"
「なるほど実家から強制送還か、なら居場所が必要か」
「で、文句はないな、楠、」
「文句も何も、こんな病人に逆らえる力なんてあるかよ」
楠の苦笑いが笑顔に変わった。
紬は箱の中で立ち上がり、少しやせた楠の体を抱きしめた。
「あなた、生きるわよ、今度こそ一緒に」
FIN
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
****************************
あ と が き
いつもそばに居るのに、
いつも隣に居るのに、
何を考えているのかわからない。
大きな変化にも気づけなかった。
そんな経験はありますか?
逆に遠く離れていても、
分かり合えた、通じ合えた、
そんな経験はどうですか?
誰かと分かり合えた時の嬉しさ、喜び、
まるで魂同志で共鳴し合っている様な、震える様な感覚。
時には、もういつ死んでもいいとさえ思えてしまう。
そんな経験、生きているうちにあと何回できるかな。
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド

















