俺のファンキー祖母ちゃん■アースダンボールメルマガVOL206■2025年5月号
あ!この人見たことある!!」
祭壇に飾られた祖母(ばあ)ちゃんの遺影を見て俺は思わず叫んだ。
「当り前やろ、お前の祖母(ばあ)ちゃんなんやし」と、
祖父(じい)ちゃんが俺にそう言った。
「そうだけど、そうじゃなくて、子供の時に一度…」
「はっは、思い出したか、湊斗(みなと)」
「覚えてるよ、あの時の人だ…」
自分の葬式にサプライズしかけるってどういう神経してんだよ祖母ちゃん。
でもそのサプライズ、実はもう一つ用意されていた…
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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俺は青井湊斗(あおいみなと)、27歳。
普段は遠方に住んでいてほとんど会わない祖父ちゃんと祖母ちゃん。
その祖母ちゃんが亡くなった。そして今日は通夜。
俺は式場に着くや否や、祖母ちゃんの遺影を見て驚いた。
遺影の人は俺が子供の頃に会った事のある人だった。
どういうことかって?
あれは俺が6歳の頃、今から21年前の話だ。
あの時、特別な理由も無かったが、
俺が望んだのか、もしくはかわいい子には旅をさせろ的な事だったのか、
俺は初めて一人で電車に乗って祖父母夫婦の家に遊びに行く事になった。
乗り換えが一回、一時間ほどで祖父母の家の最寄り駅に着く短い旅だった。
特に自分でも不安は無かったし、事前シュミレーションも万全だった。
でも駅で切符の買い方に迷い、誰かに聞こうとキョロキョロした時だった。
「どしたんぼく~、切符の買い方わからへんの~?」
と、1人の女性が俺に声をかけてくれた。
振り向くと、派手なアロハシャツにテンガロンハットばりの大きな帽子、
大きめのサングラスに帽子からはみ出るわちゃわちゃした髪の毛、
という謎コーデの "おばちゃん" が俺を見ていて、俺は一瞬たじろいだ。
「あ、あの、はい、初めてで」
するとおばちゃんは軽いノリで、でも丁寧に買い方を教えてくれた。
「一人で電車乗るなんて偉いね~、誰かに会いに行くん?」
「はい、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの家に行きます」
「そう、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも喜ぶで~きっと」
「あの、教えてくれてありがとうございます」
「いやいや、じゃあ気いつけてな~」
と言って颯爽と去って行った。
なんか変な人だなという後味だったが、とにかく助かった。
俺は無事に電車に乗り、祖父母の家に辿り着いた。
そして今日までその事を忘れていたが、今思い出した。
「はっは、思い出したか、湊斗(みなと)」
「覚えてるよ、あの時の人だ…」
遺影の写真の人は紛れもない、あの時、駅で助けてくれたおばちゃんだ。
「あの時、祖母ちゃんは俺が心配で近くで見ててくれたんか」
「バレてないか~バレてないか~ってハラハラしとったで」
「いやぜんっっぜんわからんかった、マジで気付かんかった」
「そら良かった、あの遺影の写真使うのは祖母さんの遺言や」
「祖母ちゃん、なんでまたあの時の写真を??」
「お前の驚く顔が見たい言うてな、なかなかええ反応やったで」
悲しいはずの祖父ちゃんが少し楽しそうにしてくれていた。
俺はそれがちょっと嬉しかったというか、安心した。
にしてもだよ!葬式にサプライズとかホントどういう神経してんだよ祖母ちゃん。
まあ、確かにかなりファンキーな人ではあったけど。
「実はな、サプライズがもう一つあんねん」
「ええ!?勘弁してほしいよもう、一体何??」
「それは明日の告別式でのお楽しみや」
「お楽しみって…告別式やろが…」
俺は苦笑いしながら少しだけ一人で外をフラフラと歩いた。
にしても…しんみりとか、しめやかにとか、
そんな雰囲気が無くもないけど何だかあっけにとられるような…
まあ、祖母ちゃんの遺言なら、いや差し金っていう方が近いか。
とにかく、いつものように笑って見送ってくれ、という事なんかな。
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そして翌日、告別式。
式は滞りなく進み火葬場への出棺前、皆で棺に花を入れる時だった。
「ほれ湊斗(みなと)、これ、お前が入れてやれ」
「祖父ちゃん、これって何??って、これって!」
「はっは、思い出したか、湊斗(みなと)」
「勿論覚えてるよ、これもあの時のやつだ…」
「そうや、2つ目のサプライズや」
それは、俺が昔好きだったアニメキャラが印刷されたダンボール箱。
ダンボール箱と言っても子供の顔程小さいダンボール箱で、
俺が懸賞でこのアニメグッズに当選した時に送られて来た箱だ。
そして当時、何故か祖母ちゃんもアニメ沼にハマりだした頃だった。
あの頃は祖母ちゃんの年齢でその沼にハマる人は珍しかったらしいが、
最近では年齢は全く関係なく、お年寄りのファンも多いと聞く。
つまりあの頃の祖母ちゃんは時代の最先端を行ってたって事だ。
そんな祖母ちゃんとあの頃、よく電話で推しキャラの話をしたっけか…
で、電車で一人で祖父ちゃん祖母ちゃん家に行ったあの日、
お土産をその箱に詰めて行ったんだよな。
「この箱喜ぶかな~」って祖母ちゃんの喜ぶ顔を想像しながら行ったっけ。
「祖母さんがその箱を棺に入れてくれって、あの世に一緒に持って行くんやと」
「祖母ちゃん、そんな遺言も…」
「あの頃な、祖母さんはお前とアニメの話しようと沢山アニメ観てな、
観てるうちに自分の方がどっぷりハマりよってな、笑えるやろ。
だからその箱をお前からもろた時はえらい喜んどったんやで。
ずっと大事にしとったよ。だからお前が入れてやれ」
「祖父ちゃん…うん、わかった」
俺は葬儀屋さんに「これも入れていいですか?」と一応確認し、
棺の中にそのダンボール箱をそっと置いた。
その時だった…
昨日からバタバタして更に遺影の写真にあっけに取られていた俺は、
涙を全く流していなかった。それはきっと祖母ちゃんの策略だ。
でも、その置いたダンボール箱に自分の涙が零れた跡がいくつもある事に気付いた。
「祖母ちゃん、やっぱりずっと笑ってるのは無理だ。
だから少しだけ、今だけ、泣かせてもらうからな。
それが終わったら、ちゃんと笑顔で送ってやる」
そんな俺を見て周りの人間もまた泣き始めた。
でもそれで良かった。
その後、俺は少し晴れ晴れした気持ちで火葬炉に入る祖母ちゃんをしっかり見送った。
「あのダンボール箱、ちゃんと持って行けたみたいやな、祖母ちゃん」
俺は煙突から立ち上る煙を眺めながら呟いた。
FIN
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あ と が き
私は母が亡くなった時、まったく涙が出ませんでした。
自分でも何故だかわからなかったし今もわからないのですが、
亡くなった直後も、通夜も葬式も、四十九日も、その間もその後も。
そして3ヶ月くらい経ったある日の朝に同僚から、
"飼っているフェレットが亡くなってしまい仕事を休む"
という連絡があり、その瞬間に突然、母が亡くなった事がリンクし、
涙がボロボロ零れて仕事ができなくなってしまい、
上役に「ちょっと泣いてくるので席を外します」と事情を説明し、
30分後くらいして仕事に戻った、という経験が有りました。
これに関しては今もわからないことだらけですが、
一つだけわかる事があります。
泣くべき時には、しっかり泣いてしまった方がいいんです。
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
5月某日 ライティング兼編集長:メリーゴーランド
