~ 抱っこしてよ ~■アースダンボールメルマガVOL207■2025年5月号-2
最近、主人の変な癖に気が付いた。
ダンボール箱を抱えている人を見ると、少し目で追うのだ。
じ~っといつまでも追うのではなく、多分0.5~1秒くらい。
なんでかしら?
そう思っていたある日、
その癖に主人の人生経験の原点のような物がある事を知った…
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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私は白木陽子(しらきようこ)29歳、結婚4年目の一児の母です。
主人のこの癖に気付いたのはつい最近の事。
出会ってから今までは無かったから、最近 "発症" したものだと思う。
別に問題は無い。本当に一般的な "癖" みたい。
だから最初は「ふ~ん」くらいに思っていたけど、少し観察してみた。
すると、その1秒間だけ瞼(まぶた)がほんの少し大きく広がり、
何かを考える?想像するような表情をする事も多かった。
時には嬉しそうだったり、逆にしかめっ面だったり…
なにせ一瞬の事なのでそれが何なのかはわからなかったけれど。
そんなある日、私一人で主人の実家に寄った時に、
義母、主人の母親に何となくその話をした。
すると義母は「ああ~、それね、懐かしいわ」と、
遠くを見るような目で思い出話をし始めた。
「あの子ね、子供の頃、すっごくかわいかったのよ!」
「は??あの、お義母さん、今更、息子自慢??」
「いやそうじゃなくてね、なんて言うか、あのね…」
お義母さんの話によると、主人が2~3歳くらいの頃の話で、
その頃の主人はとにかく愛想がよくて人見知りも全く無くて、
既にその歳で誰とでも "お付き合い" のできる、
スーパーコミュ力(りょく)の持ち主だったらしい。
更にそのコミュ力と屈託のない笑顔を武器にした必殺技があって、
それは…
老若男女誰かれ構わず自分よりも少しでも年上と見なすや、
その人の前で両手を広げて "抱っこして~" の必殺ポーズ。
その威力には誰も抗(あらが)えず、皆が思わず抱っこしてあげてしまう。
公園で遊ぶ時も人が何人だろうが端から端まで全ての人に攻撃を仕掛け、
それを知っている周りの人も自分の番が来るのを待つという、
一言で言えば可愛いみんなの人気者、みたいな子だったらしい。
ただ、親としては何かあってはいけないと一瞬たりとも油断できない、
そんな気疲れもさせられる子だった。
「でも、ある時その流れに変化が起きたのよ…」
いつものように公園で "抱っこして~" をしていて、
1人のダンボール箱を抱えた男性の前でも "抱っこして~" をした。
持ち物を置いて抱っこしてくれる人も沢山居たし、それ自体は珍しくなかった。
ただその男性は「ボク、この箱の中、見てみるかい?」と言った。
好奇心旺盛でもあった当時の主人は「うんうん」と首をブンブン縦に振り、
箱の中身を見せてもらった。すると…
箱の中には静かに眠っている子猫が数匹いて、
主人はその様子を食い入るように見ていたらしい。
「かわいいだろ、今から病院で診てもらうんだよ」と男性は言った。
まだ "順番待ち" が数名残っていたが、その日の "抱っこして" はそこで終わった。
終わったというか、箱の中身を見てから何かを考えている様子だったらしい。
「なんていうかハッキリこうだとは言えないんだけど、
あの子なりに感動したって言うか、心が動いた出来事だったみたい。
人が持ってるダンボール箱には何かが入ってるって、強く思ったらしいのよ」
以来、ダンボール箱を抱えてる人には "抱っこして~" と "箱見せて~" の、
ダブルおねだりがお決まりパターンになった。
大人なら状況次第で通報されるし、小さな子供だからOKという事でもない。
勿論、親としてその行動の全てを放っておいた訳でもない。
「でも、あの子の "箱見せて~" は何故か周りに受け入れられてたわね」
これも一重(ひとえ)に持ち前のコミュ力のなせる技だったのかもしれない。
だた、"抱っこして~" とは違って色々な事が当時の主人を待ち受けていた。
まず "抱っこして~" ほど成功率は高くなく、見せてくれない人も勿論居た。
失礼な子だな、あっち行けシッシ!的な扱いをされる事もあった。
箱の中身も子供が興味有る物、無い物、楽しい物、嫌いな物、
すごい物、怖い物、不思議な物、想像もつかない物…
箱の持ち主にどんな反応をされても何が入っていても、
主人はそれを止めずに続けたらしい。
「次は何だろう?何が見れるだろう?って。ほら、今で言えば、
ユーチューブとかで次の動画をどんどん見ちゃうような感じかしらね」
本当に人の対応が様々で、色んな物が入っていて、空っぽだったりもして、
理解できてるのか、できてないのか、多分できてなかったと思うけど、
それでも箱の中身の色んな話を聞かせてくれる人も沢山居て、
当時の主人はそれを "ほうほう" みたいに聞いて、何かを感じて考えて、
子供なりに、人の感情にも沢山触れたのだろう。
"ダンボール箱の中身を見る" という小さな行動で狭い範囲の世界だったけど、
人や物との関わり方を自然と学んでいるかのように、お義母さんには見えたらしい。
「今思えば、皆さんも本当によくお付き合い下さったわね」
なるほど、主人の癖もその頃のなごりと言えば腑に落ちる。
ただ何故、今になってそのなごりが出た…?
熟考しているうちにある事が思い浮かんだ。
「そう言えばうちの子、涼也(りょうや)が最近、
その頃の主人と同じ2歳なのに色んな人に抱っこをせがんでるような…」
「ああそうね、あの子もまったく人見知りしないわねえ。
私達じいじとばあばには嬉しい限りだけど、やっぱり血なのかしらねえ」
「涼也の "それ" を見て小さい頃の自分が無意識にリンクしたのか…なるほど…」
そんな訳で私の中の疑問はほぼ解消した。
これだけシンプルに一本の線で物事が繋がると少し気持もいいものだ。
でも最近、その癖の新たなバージョンにも気づいてしまい、
少しだけモヤモヤしている。
それは、いつものように街中でダンボール箱を持った女性とすれ違った時だった。
主人はやっぱり少し目で追っいてた。
1、2秒、やっぱり2秒だ、いつもより1秒長い…
それによく見ると他の男性も周りに気づかれないように、
"チラッ、チラッ" とその女性に視線を送っているのがわかる。
なるほど、やっぱりそういうことか…
ダンボール箱を持つ美人さんて、魅力が増すのかしら??
箱を見るのに1秒使い、その女性(ひと)を見るのに1秒使うって事ね。
まあ、よく考えればこれってごく普通の事だよね、きっと。
私が寛容な性格の妻で本当に良かったわね、あなた。
"箱見せて~" さえやらなければOKとするわ。
FIN
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あ と が き
日本では昔、どのくらい昔かはわかりませんが、箱は、
超自然的な物や神秘的な物、
人に見せてはならないものや大切な物を、
隠しておく、閉じ込めておくことができる物、
だと考えられていたという説があります。
でもこれ、あながち昔の事としてではなく現代でも、
表現方法や対象物の物理的な形は様々になったとは思いますが、
基本的には同じ考え方に基づいた使い方をしていると、
私的には思えなくもありません。
人の心って不思議です。
人の人生ってホント不思議です。
箱に入れる物ってある意味、ひとの心だったり人生だったりしますよね。
貴方にとって箱の中ってなんですか?
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド

