お前は大丈夫、絶対■アースダンボールメルマガVOL158■2023年5月号

娘の部屋からすすり泣く声が聞こえる。 『彼氏と別れた・・・』 娘は外出から帰るなりそうぼそっと呟いて部屋に閉じこもった。 こんな時に親は、特に男親はなんて無力なんだろうと思います。 せめていつも通りに接しよう、それしかできない。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** 『お父さん、ダンボール早く片してよ』 『わーった、わーったから、今度の土曜までにはやりますって』 娘とこの会話を何度した事か。 おはよう、おやすみ、行ってきます、おかえり、 そんな日常会話の次くらいに多いのが、 『お父さん、ダンボール早く片してよ』でした。 その度に僕は 『わーった、わーった、今度の土曜までにはやりますよ』と返しました。 我が家は全員、通販をよく利用するのでダンボールが沢山届きます。 その空箱は各自が畳みもせずに階段下のスペースに置いてしまいます。 そのダンボール箱を月に二回、僕がまとめて回収日に出すのですが、 僕が出す空き箱が一番多いので自然とそんな流れになってしまったのです。 "ここは各自が畳んでから出すべきでしょう!!" というご意見もごもっともではありますが、 実は僕はこの"役目"がまんざら嫌ではありません。 "僕でよければやりますよ"という気持ちがあるのともう一つ、 その会話のニュアンスで娘の機嫌がある程度わかるのです。 例えばそう、会社帰りのサラリーマンが帰り際に家に電話を入れ、 奥さんの口調から機嫌を察知、悪そうならケーキ等の貢ぎ物作戦を・・・ そんな感じにちょっと似てるかもしれません。 "いや似てねえわ" というご意見はさておき、年頃の娘ってのは色々難しい。 まあよく考えれば女性ってどの年代でも"年頃"って言えるかもしれませんが、 何はともあれ僕はこのやり取りが好きなんです。 娘も多分、何かそのような理由で発している言葉なんだと思います。 例えばそう、重なりが少しずれてしまった数十枚のA4サイズの書類を、 机の上に トントン と軽く叩いて綺麗に端を揃えるようなあの感じ。 僕と娘の関わりを トントン と整えてるようなものなのかもしれなません。 ただ娘にはよく言われるんです。 『お父さんの例え話ってよくわかんない』と。 でも『ダンボール片して』『わかったよ』はとてもシンプルで簡潔です。 だから長く続いていたのかもしれません。 続いていた、そう、過去形なんです。 もう2年以上、この言葉を聞いていません。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** 娘は3年前に大学を自主退学しました。 特に目標もなくモラトリアム的雰囲気での大学進学を決めた娘でしたが、 バイトにばかり精を出しすぎて学業が疎かになってしまい、 自業自得の退学でした。 退学後も特に方向転換するでもなくバイトに励む日々を送りましたが、 コロナ渦の緊急事態宣言が発令し、居酒屋バイトの娘はシフトが激減。 それでも方向転換できず、いや、せず、たまのバイトをするだけの日々。 収入も減り、やる気も減り、外出も減り・・・バイトも自然退職(?)し、 部屋に籠ってスマホでアニメを見るだけのような日々・・・ ああ、これが闇落ちってやつか。世間的にはニートっていうのかな。 妻は娘を見て嘆いていたが、僕は意外と楽観的でした。 僕が娘と同じ年の頃、もっと堕落してたしもっと親に迷惑をかけたし、 それでも今こうして何とかやっていけているという経験があったからです。 それともう一つ、今思えばこれが凄く大事な事だったと思います。 "娘は絶対に大丈夫、必ず復活できる" と、信じて揺らぐことがなかったからです。 なぜ信じられたか、そのハッキリした根拠はありません。 娘と過ごした約20年の月日が僕をそう信じさせただけなのです。 ただ、娘の彼氏の存在も大きかったと思います。 大熱を出した娘を、休日だった彼氏が車で病院に付き添ってくれました。 その検査結果で娘はコロナ陽性、多分そのせいで数日後に彼も陽性と大熱。 社会人だった彼にとっては約10日の自宅待機は痛かったはずです。 実はその時、娘は発熱の事を家族には言わず彼氏にだけ伝えていまして。 その上での彼氏の行動でした。親としては形無しな話です。 娘が家族にそんなうしろめたさを感じていた事に気づきもしませんでした。 もちろん後日、その彼には私から感謝を直接伝えました。立派な青年でした。 娘をそんな風に大事にしてくれる彼氏がついてるんだから。 それも僕を信じさせた一つでした。 __________ でも娘がそんな状況を変えるのはやはり簡単ではなかったようでした。 何とかしたいのに何ともできない自分。 状況を変えたいのに怖くて一歩目が踏み出せない自分。 そんな自分と向き合う事もできない自分。 今思えば、そんな苦しさと闘っていたんだと思います。 そんなある日、娘がうつろな目で僕にこう言ったんです。 『お父さん、お金貸して、お願い』 カード引き落とし日なのに銀行残高が足りないとのことでした。 娘にお金を貸してと頼まれたのは初めてでした。 そして娘は 私は何もできない・・・どうにもできない・・・と、 まるでこの世の終わりのようにわんわんと泣き出したんです。 その時、娘にかける言葉は色々あったと思います。 言うべき事も色々あったと思います。 ですが私が娘にかけた言葉はたった一つでした。 大丈夫、お前は大丈夫だから。 気休めじゃありません。 先程も申し上げましたが、本当に大丈夫だと信じきっていたからです。 少し雑な言い方かもしれませんが、娘が今苦しんでるとしても、 もっともっと大変で苦しい状況から立ち直った人を沢山知ってます。 だからこのくらいはまだまだ大丈夫、と本当に思えたんです。 私は、その場はそれ以上何も言わずその金額を渡しました。 カードからは無事に引き落としされました。 そしてこの出来事がターニングポイントになりました。 その次の日から娘は、小さな、本当に小さな一歩を踏み出し始めました。 今日のノルマは履歴書を買ってくる。 今日のノルマは証明写真を撮って来る。 今日のノルマは履歴書を書く。 今日は求人アプリの登録、今日は気になる企業探し、 そんな小さな一歩を積み重ね続けました。 今はこれでいい、できる事だけでいい、無理はしなくていい。 もし行けると思った日は一歩でも二歩でも余計に行ってみればいい。 三歩進んだら二歩下がってもいいじゃん。 僕はただそんな風に見守りました。 水前寺清子さんの歌ってやっぱすげえなあ。しみじみそう思いました。 娘はやがてある企業の面接に進み、採用通知が届き・・・ いや、だから僕は最初から信じてたから。 お前の挫折なんてどうって事なかったんだよ。 なんて言ったらお前は怒るかもしれないけど。 採用されたけど正社員じゃない?別にいいじゃん! フリーター?上等じゃん! アルバイトでも社会保険に入れて有給あって、最高じゃん! 正社員になんなきゃダメとか、目標見つけて資格取得しろとか、 そりゃあ見る人から見ればまだまだ全然かもしれないけど、 それすらできない人が沢山いるんだぜ。 したくてもしたくても、どうしてもできない人が沢山いるんだぜ。 自分で踏み出して掴んだ今の幸せを噛みしめて感謝すべきだよ。 『先輩も優しくて丁寧に教えてくれて凄くいい職場だよ』 お前が笑顔でそう話してくれるだけで今はいいんだよ。 なんなら、今お前がこうして存在してくれるだけでいいんだよ。 僕にとっては、だけどね。 そして娘が新たな職場で働き始めてまだ一週間しか経たない頃、 楽しい職場に入れてよかった、と言っていた頃でした。 娘が彼氏と別れたと聞いたのは・・・ (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** そりゃあ人と人ですから。時間が経てば変わるものもあります。 ただ・・・ こんな時に親は、特に男親はなんて無力なんだろうと思います。 せめていつも通りに接しよう、それしかできない。 でもこのショックで娘が前の状態に戻ってしまわないだろうか。 そんな心配を抱えたままその翌日・・・ 娘は一晩泣きはらしただろうむくんだ顔で玄関を出ようとしていた。 『仕事、行くのか?』 『うん、行ってきます』 元気のない声だ。背中も丸い、肩も下がってる。 苦しいだろう、さぼりたいだろう、ふて寝の一つもしたいだろう。 でも娘はそれを振り切って職場へ向かう自転車をこぎ出しました。 その時、僕は思ったんです。 お前が娘で良かったって。お前から勇気を貰えたって。 __________ それからも娘は休まず出勤しています。 多分だけど、失恋の傷もある程度は癒えてるようにも見えます。 まあ実際のところはわかりませんが・・・ ただ昨日、娘が久しぶりにこう言ったんです。 『お父さん、ダンボール早く片してよ』 ああ、えっと何だっけ、何て答えるんだっけ? そうだ、こう言うんだ 『わーった、わーったから、今度の土曜までにはやりますって』 娘はそれだけ言って ニッ と笑うとそそくさと行ってしまいました。 でもどのくらいぶりでしょう、この言葉を聞けたのは。 いつまで聞けるかどうかわかりませんが、 お前と一緒に暮らす間は僕がやりますよ、ダンボール片付けは。 いや、やっぱり『お前もやれよ』っていうべきでしょうか!? FIN 98-2 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п ****************************     【編集後記】 日本には言霊(ことだま)信仰があります。 言葉にしたことは現実になるというものです。 だから逆に、起きて欲しくない事は言葉はしない、 という考え方もあるにはあるようですが、 やはり向き合わなければならない未来は必ずあります。 そんな時、信じる力が結果に大きく影響する事もあると思います。 かと思えば信じすぎて失敗してしまう事も多々あったりします。 何をどのくらい信じればいいか最初からわかればいいのかもしれませんが、 それができたら信じるという行為はそもそも必要ないとも言えますよね。 今日あなたは何を、誰を、どのくらい信じていますか? 今号も最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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