今、あの日の僕に言ってやりたい■アースダンボールメルマガVOL159■2023年5月号-2

夜、いい眠りにつけるかどうかは、 その日"どれだけ自分らしく生きられたか"によるらしい。 僕は今日 "自分らしい" 後悔をした。 後悔するのが"自分らしい"なんて変だと誰もが思うだろう。 それにやっぱり、後悔した日の夜はいい眠りにつけない。 後悔が自分らしいなんても、本当はもうやめたい。 ただその鍵が、幼い頃の自分と1箱のダンボール箱にあったなんて、 この年になるまで僕は思いもよらなかった。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** 僕は立科春斗(たてしなはると)28歳、社会人。 ある日の夕方、顧客先の訪問を終えた僕は社用車で社に向かっていた。 さっきまで降っていた雨の影響で路面が少し湿っている中、 僕はある交差点の赤信号で停車した。 停車の車列は多分10台くらい、僕は前から三台目だった。 交差点の横断歩道を自転車に乗った老人がフラフラと渡っていたのだが、 その老人が信号を渡り切った時だった。 老人の乗った自転車のタイヤが段差でツルっと滑り、老人が転倒した。 車も人通りもある交差点だから多くの人の目に留まったと思う。 5秒ほど経ったが誰も声をかけない。 交差する道路を走る車は老人の横を通る時に少しスピードを緩めるが、 交差点の角は停車しにくいのか、どの車も止まらず走り過ぎてしまう。 更に5秒ほど経ったがまだ誰も声をかけない。 行くか!と思って僕はドアノブに手をかけた。 でもその時、こちらの信号が青になった時の状況が頭をよぎった。 ここに置きっぱなしの僕の車は凄く邪魔になる。 渋滞が発生する。クラクションが鳴り響く。 罵声も浴びせされる、かも・・・でも人助けだ、そんなの関係ない! なんなら僕の前の2台の運転手が出たっていいじゃん! 更に5がくらい経った時、一人の歩行者が老人に声をかけた。 続けざまに別の歩行者も老人に駆け寄った。 多分それが見えていた人はみんなホッとしただろう。 勿論、僕もホッとした。 でも僕は知っている。 僕がホッとしたのは多分、老人が助けられたからじゃない。 自分が出て行かずに済んだ事にホッとしたんだ。 自分のそんな胸の内に気づく度に、自分が嫌になる。 そして動けばよかったと後悔する。 いつもそうだ。ここぞって時に心が体にブレーキをかける。 だから今は、認めたくないけど認めるしかない。 こんな後悔をするのは今の僕らしさの一つなのかも、と。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** この出来事が顔に出ていたのだろう。帰社した僕を仲のいい同僚が 『辛気くさい顔してどうした?取引先でなんかあったのか?』 『いや、商談はうまくいったんだけど、ちょっとな・・・』 こいつ、中下京弥(なかしたきょうや)は同僚でもあり親友でもある。 僕は交差点での事を京弥に話した。 『なるほどな・・・でもそれ、お前の本質じゃないと思うぜ』 『俺の本質じゃないって、どういうこと?』 『俺がいうのもなんだけどお前は人より仕事できるし、  率先して仲間を手伝うし、意地悪もしない。  確かに他人にはどこか臆病に思われる所もあるかもだけど、  俺から見ればそれは状況把握できてるからこその判断だよ。  お前は自分が思うほど自分を卑下しなくてもいいと思うな』 『ありがとう。そう言って貰えると少し安心する』 『それにこうして自虐話?とはちょっと違うか、  とにかくそういう話を隠さずに話してくれる奴だし』 『誰にでも話すわけじゃないよ。お前だからかな』 『そうか。でも俺は本当に思った事を言っただけさ。ただ・・・』 『ただ?』 『ただ、どうしてもお前が自分の"何か"が気になるなら、』 『気になるなら?』 『そういうの、幼い頃の経験とかが影響してるのかも・・・』 『お前すげえな、学者みたいじゃん』 『って、何かの本で読んだ気がする』 『あ、な~る。でも幼い頃、か・・・』 その週の週末、僕は久しぶりに実家に電話をした。 そこで母からある話を初めて聞かされた。 それは、僕の記憶があいまいな程、まだ幼かった頃の話だった。 _____________ 『なあ母ちゃん、今日さ、・・・ってな事があってさ』 『珍しいねえ、お前がそんな話するなんて』 『母ちゃん、俺の小さい頃でなんか思い当たる事ない?』 『・・・実はあるんよ、一つ・・・』 『え!?なにそれ?聞かして聞かして!』 『いつかお前に話してみようと思ってた事があってね。  でもどのタイミングでどう話したらいいかわからなくて・・・』 『うん、それでどんな?』 『お前、サチの事、覚えてる?』 『サチって俺が小さい頃に飼ってたミニチュアダックス?』 『そう、犬のサチ。どんな風に覚えてる?』 『俺がすごく小さい時だよね。居たのは覚えてるけど、  可愛くて大好きで楽しくて、そんな断片的な記憶しかないな』 『じゃあサチが死んだ時の事は覚えてる?』 『死んじゃって悲しくて、そんな感じしかないな』 『そう、やっぱりそうだよね』 『その時、何かあったの?』 『うん、あの時ね、サチが死んだ日・・・  死ぬ何日か前からサチの具合が少しづつ悪くなって、  いよいよ動けなくなってきて、もう立ち上がれなくなって。  その日は日曜日で家族全員が家にいたんだけど、  誰もが、もしかしたら今日かもって思ってたのよ』 『・・・うん、それで?』 『全員がサチを囲むようにリビングに居たんだけど、  その時お前が小さなダンボール箱を持ってきたのよ』 『ダンボール箱?』 『そう、ダンボール箱。  お前がよくサチと遊んでた、サチが大好きだったダンボール箱。  多分お前はサチを元気づけようと持って来たんだと思うの。  そしたら意識も殆ど無いはずのサチが"ワン"って一鳴きして立ち上がったの。  その時は私も、家族全員がすごくビックリしたわ。  お前も"サチが元気になった!"ってすごく喜んでて。  それからサチはヨタヨタとゆっくり歩き始めて・・・  そしておじいちゃんの所まで行ってクンクンってしたの。  次におばあちゃんの所に行ってクンクンって。  次にお父さんの所に、次に私の所に。  一人一人に何かを伝えているように見えたわ。  そして最後にお前の所に行って尻尾をひと振りだけしたの。  その時、お前は喜んでたけど、他の家族はみんな分かったの。  サチがみんなにお別れを言ってるって。  お前が持ってたダンボールを床に置いてあげたら、  サチはその箱に入りたそうにしたけどもうそんな力は無くて。  そしたらお前が抱きかかえて箱に入れてあげて。  サチは満足そうな顔で箱の中で横になって・・・  そのまま、箱の中でサチは逝ったの・・・』 少しの間、僕と母の間に無言の時間が流れた。 『そっか、そんな感じだったっけ。覚えてないな』 『その後ね、お前は泣きながらこう言ったのよ。  "ダンボール箱なんか持ってくるんじゃなかった"って。  私はこの言葉がずっとどこか引っかかってて・・・』 『それも覚えてないな、俺そんなこと言ったのか』 『これは私の想像なんだけど、お前は・・・  自分がダンボール箱を持ってきたせいでサチが死んだ、  そう思い込んでしまったんじゃないかしらって。  ただでさえ飼ってた犬が死んですごく悲しいのに、  同時にその原因を自分が作ったと思い込んでしまったら、  そんな感情、幼い子供に処理しきれるはずがないもの。  自分が余計な事をした、何もしない方がよかった・・・  あの時の経験があなたの中でそんな風に変わってしまったのかも。  お母さんそうに思いながらもお前に何もしてあげられなくて。  ごめんなさい・・・』 『母ちゃん、そんな風に思わないでよ』 『でもね、もしお前とあの時の話ができたら、  どうしても伝えたいと思ってる事もあるんだよ』 『なに?』 『サチはあの時、箱に入りたかったんだと思うよ。  箱に入れてすごく嬉しくって幸せだったんだと思うよ。  お前との楽しい思い出に包まれて死ねたんだと思うよ。  お前がダンボール箱を持ってきてあげて本当に良かったんだと思うよ』 『うん、ありがとう、母さん。  俺、なにかつっかえてたものが取れた気がするよ。  きっと母さんも苦しかったんだよね、俺の方こそごめん』 __________ もしかしたら僕の中には、今もあの日の僕が居るのかもしれない。 だとしてもあの日の僕が今の僕に影響しているのかどうかはわからない。 ただ、母ちゃんの話を聞いて一つだけ思ったことがある。 それは、あの日の僕にこう言ってやりたい、てこと。 良かったな、サチに最後の思い出を作ってやれて。 サチを幸せに旅立たせてやれて。 お前は後悔なんてこれっぽっちもしなくていいんだぜ。 FIN 98-2 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п ****************************     【編集後記】 幼い頃の経験がその後の人生に影響するというのは、 よくある事なのだと思います。 むしろそれが普通、自然の事と言えるかもしれません。 また全く覚えていなかった事が突然フラッシュバックする、 これもよくある事ですよね。 段ボールは今ではごく一般的なアイテムゆえ、 人の記憶の中に刻まれる確率も高いかもしれません。 その全てがいい思い出になるはずが無いのはわかっていますが、 私達箱屋はそう願わずにはいられません。 今号も最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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