~守られて~■アースダンボール メルマガVOL125■2021年12月号-2

『これが何だかわかるかい?琴子(ことこ)、』 曾祖母が飛行機模型を手に持って私に言った。 『ゼロ戦でしょ?』 『そう、正式には零式(れいしき)艦上戦闘機』 『へえ・・・』 『じゃあ特攻隊って知ってるかい?』 『特攻隊?・・・』 『そう、特攻隊。私の初恋の人はね・・・』 私はその日、初めて曾祖母と膝を交えて話した。 98-2 (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** 私は琴子、18歳の大学生。 大学生って言っても夢無し目的無しのひとまず進学。 私はいつも無気力で無関心、感情の起伏もあまり無い。 そんな私には曾祖母が居る。祖母も同居していた為、 曾祖母のひいおばあちゃんを縮めて"ひーちゃん"、 祖母を"おばあちゃん"と呼んでいた。 他人にも家族にもあまり興味のない私は、 今までひーちゃんの人生を知る事も想像する事も無かった。 そんなある日、珍しくひーちゃんが私を部屋に呼んだ。 『なに?ひーちゃん、珍しいね』 『琴子、忙しいのにすまないねえ』 『別にいいよ、で、どうしたの?』 『ダンボール箱を1つ調達してくれないかしら?』 『ダンボール箱? 何を入れるの?』 『これだよ・・・』 ひーちゃんはベッド脇の棚にある飛行機模型を手に言った。 『なんでダンボール箱に入れるの?』 ひーちゃんは少しの間をとった後、こう言った。 『これが何だかわかるかい?琴子(ことこ)、』 『ゼロ戦でしょ?』 『そう、正式には、零式(れいしき)艦上戦闘機』 『へえ・・・』 『じゃあ特攻隊って知ってるかい?』 『特攻隊?・・・』 (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** ひーちゃんは話しを続けた。 『私の初恋の人は戦争に行ったの、ゼロ戦乗りだったの。 今も最後に見送ったあの人の背中を覚えてる。 私が18歳の時だった。今のお前と同じ年の時ね。 しばらくしてあの人が亡くなったと通知が届いたの。 最後は特攻隊に志願したって書いてあったわ。 悲しい、寂しい、悔しい、虚しい、全部だったわ。 でもそんな事も言ってられないくらい大変だった。 みんな、今日を生きるのに必死だったよ。 それから数年経ってお前のひいじいちゃんに出会ってね。 ひいじいちゃんは戦時中に工場でゼロ戦を造っててね。 勿論、私は初恋の人の事を全部話したわ。 そしたらひいじいちゃん、 "その方も私が造ったゼロ戦に乗ったかもしれませんね"って。 私の全てを受け入れてくれてね。私達は結婚したの。 偶然にも、私が愛した人は二人ともゼロ戦に携わる人だった。 それから三人の娘に恵まれてね、その一人がお前のおばあちゃん。 決して楽じゃなかったけど、賑やかで幸せな暮らしだったわ。 でもひいじいちゃん、主人は結核で40歳で亡くなってね。 私はまた愛する人を失ってしまったの。 その時たった一度だけ、自分の運命を呪ったわ。 でもやっぱり、いつまでも悲しんではいられなかった。 なんせ3人の娘が居るからね。必死で必死で働いたわ。 この子達を守らなきゃ・・・て。 でも長女が、お前のおばあちゃんが中学校を卒業する時、 こう言ったんだよ。 "お母さん、今まで私達を守ってくれてありがとう。 これからは私も働いてお母さんと妹達を守るよ" って。 その時にね、気づいたのよ。 私は娘達を守らなきゃってばかりだったけど、 守られてたのは私の方だったんだなって。 あの人も主人も亡くなってはしまったけど、 あの人や主人が守ってくれたものが巡り巡って、 今も私を守ってくれてるんだなって』。 時間にしてたった4~5分のその話が、 私には1時間にも2時間にも感じられた。 いつも無関心な私の心の底に静かに溜まった沈殿物に、 その中心に串を刺されてぐるぐる掻き回される感覚だった。 恋人が戦争で亡くなる? 大切な人が病気で亡くなる? 一人で子供を育て上げる? 悲しむ暇もなく必死で今日を生きる? 今、目の前にいる人はそうして生きてきた? なにそれ、なにそれ? 勉強はそれなりにできて知識もそこそこある私なのに、 今まで得た語彙力なんて何の役にも立たないくらい、 頭の中で何の整理も、想像さえもできなかった。 その時ふいに、ひーちゃんが言った。 『琴子、大丈夫?』 『うん、大丈夫、で、それから?』 『それからは娘も皆成長して、それぞれ結婚もして、 "お母さんは今まで苦労したんだからもっと楽して" って言ってくれて、守られてばっかりの人生だったわ。 そして最初の孫、お前のお母さんが生まれて数年後、 長女、お前のおばあちゃんが一緒に住もうって言ってくれて。 そして初曾孫のお前が生まれて。申し訳ない程幸せな人生だよ』 ひーちゃんの顔はとても穏やかだった。 私は自分の頬に涙が伝っているのにも気づけなかった。 『そう言えばそのゼロ戦、どうしたの?』 『お前の従弟の功(いさお)の小学生時代の夏休み工作でね。 何やら賞を貰ったとかで私に見せに来てくれてね。 その日はたまたま私の誕生日で"何が欲しい?"て言うから、 "それが欲しい"って言っちゃってね。でも快くくれたの。 本当に偶然、功が持ってきたゼロ戦だったけど、 あの人と主人の心に、もう一度触れられた気がしてね』 『そっか・・・ひーちゃんの宝物だったんだね。 それで何でまたダンボールにしまうの?』 『この間の地震の時にゼロ戦の上に物が落ちてね、 ゼロ戦が壊れそうになっちゃったのよ。その時に思ったの。 こんな年になっても、まだまだ何かを守りたいなって。 だからまずはこのゼロ戦を守るの。私の新らしい一歩ね』 『ふうん、でも他にもいい方法あるんじゃない?』 『あら、こういう時はダンボールが一番なのよ^^』 そう言うひーちゃんの目はとてもキラキラしていて、 私の理屈っぽい考え方なんて不要なんだと納得できた。 ひーちゃんはひーちゃんの感性でダンボールに決めたんだ。 するとその時・・・ 『お母さん、入るわよ』 と言って私のおばあちゃんが部屋にやって来た。 すると続いて 『おばあちゃん、入るわよ』 と言って私の母も入ってきた。 何故か二人とも一抱えほどのダンボール箱を持って。 あれ・・・? と顔を見合わせるひーちゃん以外の3人・・・ 『ひーちゃん、まさか皆にダンボール頼んだの?』 『うん、そうよ。一番丈夫な箱にゼロ戦入れてね、 他の箱も全部ちゃんと使うから、みんなありがとうね』 と悪げもなくニコニコしながらそう言った。 するとみんなもケタケタと笑い出してしまった。 『も~おばあちゃんたら、そうならそうと言ってよ~』 ダンボール箱とゼロ戦を囲んで、 久しぶりに揃った女4世代でひと時を分かち合った。 98-2 (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** その日の夕食後、リビングで母と二人になった時、 私はふいに母につぶやいた。 『お母さん、私、戦争とか特攻隊とか、わかんないの。 ひーちゃんの初恋の人の事とか、ひーおじいちゃんの事とか』 すると母はこう言った。 『それはお母さんも同じ、私にもわからないわ。 戦争とか特攻隊とかには色んな考えや捉え方があるものね。 でもお母さんこれだけは思うの。 ゼロ戦乗りだったおばあちゃんの恋人も、 工場でゼロ戦を造ってた貴方のひーおじいちゃんも、 家族や大切な人や国を守る為に闘ってくれてたって。 そして誰かに守られたら、その事を忘れちゃいけないって。』 『うん、そうだね、私もそう思う。 ・・・・・・・・そうだ、あのね、 私、丈夫なダンボールを調達してくる。凄い丈夫な箱!』 『そうね、おばあちゃん喜ぶわね』 『うん、おやすみなさい』 『はい、おやすみなさい』 FIN

次のメルマガへ:2022年1月号 壊せ、愛ゆえに-前編-■アースダンボール メルマガVOL126■
前のメルマガへ:2021年12月号 お前のモノは俺のモノですって!?■アースダンボール メルマガVOL124■

バックナンバー一覧に戻る

ダンボール専門店最大4000種類超え・ご注文累計100万件以上 創業70年 工場直営なので最短当日お引き取りも可能 ダンボール2.0

  1. ダンボール通販・購入 トップ
  2. 箱職人のメールマガジン
  3. 2021年12月号-2 ~守られて~■アースダンボール メルマガVOL125■