ダンボールが聞こえる■アースダンボール メルマガVOL93■2020年8月号-2

yamagishisama08 僕は今暗い部屋で息をひそめている・・・。 出ようと思えばすぐに出れるんだけど、 出られる雰囲気じゃないっていうか・・・ (´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п ************************************************** 僕は近くのホテルに泊まるからって言ったのに、 『久しぶりにこっちに来るんだからウチに泊まんなさい!』 って叔母さんがあまりにも強く言うもんだから。 でも今夜だけはやめとくべきだったと思うんだよね。 だってこの家には、明日嫁ぐ従姉の雫(しずく)がいて、 あとは叔母さんと叔父さんしかいない。 娘の結婚前夜くらい親子水入らず3人で過ごせばいいのに。 確かに僕の両親(叔母さんの妹夫婦)が早くに亡くなって、 叔母さん夫婦が僕の親代わりだったってこともあるけどさ。 それにほら『お父さん、お母さん、不束な娘ですが・・』 的なあれ、あの場面だってあるでしょ。たぶん。 そんな夜に他人の、一応親戚だけど僕が居ることないよ。 そう、僕は明日の従姉の結婚式に出るために来た。 僕は気を利かせたつもりで夜7時には『疲れたからもう寝る』 とリビングの隣の部屋に引っ込んだものの、寝るに寝れない。 だってリビングの3人の様子が気になって気になって・・・ (´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п ************************************************** 僕は布団の中でリビングに意識が向いてしまっていた。 物音も会話の内容もある程度聞き取れるのがまた痛い。 3人はテレビのバラエティ番組を見ながら談笑していた。 これがいつもの日常なんだろう。もちろん時間もまだ早い。 いつだ、いつ始まるんだ、あの場面・・・ 僕はワクワクドキドキにちょっとした罪悪感も混じった かなり妙な感情を感じながら"その時"を待った。 夜9時を回り、テレビが消されて少し静かになった。 3人が同時にダイニングテーブルに座る音が聞こえた。 いよいよか・・・始まるのか・・・!? ダイニングはリビングの一つ向こうの部屋で声が聞きにくい。 だから僕の意識は声以外の音全てに自然と向いていた。 いつの間にか布団から出てドアに耳をあててしまっていた。 その時、何か物を運び込む音が聞こえた。 バフッ、ミシッ、ドンッ、ドサッ、ザザッ、・・・ この音は・・・? ダンボール箱を、運んでる? 3人で何か、多分思い出の品とか、を見るところらしい。 なんとなく前夜らしくなってきたかな。 意外にもダンボールの音で3人の動きが分かった。 ダンボールの音に意識を向けたのは初めてだったけど、 意外と色んな音があるんだという事にも気がついた。 床から持ち上げる為に手で抱える時の音、 箱が床から離れる時に底が少し擦れる音、 持ち上げた時に箱全体が少しきしむような音、 これは飛行機が離陸する瞬間の機内全体がきしむ音に似てる。 運んでる最中に中身がユサユサ動く音、 箱をテーブルの上に置く音、蓋を開ける時の空気の揺らぎ、 箱の角に洋服の袖がそっとかする音・・・ 僕はいつの間にかダンボール箱の音だけに耳を傾けていた。 そしてもう一つ不思議なことが分かった。 同じ動作の音でも人によって音色が違う・・・ 物理的な部分じゃなくて、人柄や性格というか・・・ ちょっとせっかちで強引な感じの音は叔母さんの音、 物静かで寡黙で落ち着いた感じの音は叔父さんの音、 明るくて陽気で物おじない感じの音は雫の音、 同じダンボール箱を触ってるのにこんなに違う音なんだ。 なんて変な関心をした時、僕はふと我に返った。 いやいや、いかんて、やっぱりこんなの野暮だって。 僕はそそくさと布団に戻った。 "意識を他に向けよう、折角だから結婚ソングでも歌おう。 ええと、結婚の歌、結婚の歌、と・・・" お前を嫁に~♪ 貰う前に~♪ ちょっと古いけど、いつまでも名曲だよな、さだまさし。 部屋とYシャツと私~♪ ゆっくりで逆にリズムが難しいんだよな、これ。 瀬戸は~♪ 日暮れて~♪ せとワンタン、ひぐれ天丼・・とか変な替え歌あったな~。 どんなことも~♪ 超えて行ける~♪ 家族になろうよ~♪ ああこれだよこれ、やっぱり俺は福山だな、うん。 もう一曲くらい・・・ええと、、、 こんな小春日和の~♪ 穏やかな日は~♪ ああ、なんだかんだで最高だよね、百恵ちゃん・・・ 一人結婚ソング歌合戦で盛り上がっていた僕は、 一瞬意識を3人に戻してしまった。 その時だった・・・ それまで聞こえていた音とは更に違う音が聞こえた。 音というか、ただの音じゃなくて、なんていうか、、、 これ、この感覚、なんだっけ、意外といつも感じてるような、 そうだ! 今歌ってたじゃん、音楽、楽器だ! 音楽を聴いていると、音の向こうから奏者の感情や想いが 聞こえてくる、流れ込んでくるみたいに感じることがある。 それに似てるんだ・・・ ダンボール箱を手で触る音から、微かだけど確かに感じた。 叔母さんの、叔父さんの、雫の、声に出さない感情を、、、 この音は、、、楽しさの中に淋しさも混ざったような、 これは叔母さんの感情・・・ こっちの音は、喜びの中にも切なさが混ざったような、 これは叔父さんの感情・・・ この音は、、、嬉しさの中にも不安が混ざったような、 これは雫の感情か・・・ あんなに楽しそうに話してるのに、嬉しそうなのに、 それぞれに表情や口には出さない想いがあるんだな。 それが、ダンボール箱の音に乗って僕に伝わってくる。 そっか、結婚式前夜の親子ってこんな感じなのか・・・。 あ、あれ、、、? 僕は自分の頬を伝う涙に気づいた。 ええと、やっぱ寝よ、、。 なぜかふと、これ以上は聞かない方がいいと思った。 _______________________ それから3時間くらい経った午前1時頃に目が覚めた。 扉の向こうの話し声は聞こえなかったが灯りは着いていた。 僕はそっと扉を開けて部屋を出た。すると、 ダイニングテーブルの上に積まれたダンボール箱が数箱。 そして叔母さんが一人で腕に頭を伏せて居眠りしていた。 叔父さんと雫はそれぞれ寝室に行ったようだった。 僕はそっと叔母さんの肩をたたいて起こした。 『叔母さん、こんなとこで寝たら風邪ひくよ・・・』 はたと目が覚めた叔母さんの目は少し赤かった。 『あらやだ、私ったらこんなとこで・・・』 『明日も1日大変なんだし、ちゃんと布団で休みなよ』 『うん、そうね、ありがとう・・・』 叔母さんはそう言って椅子から立ち上がった。 そして更にこう言った。 『ねえ、もう一晩くらい泊まっていけるんでしょ?』 『あ、ああ、うん、大丈夫だけど。そうして欲しいの?』 僕は少し意地悪く返した。 『せっかく来たんだからもう少しゆっくりして行きなさいよ』 決して、寂しいから誰かにいて欲しい、的な言い方はしない。 『わかった、じゃあお言葉に甘えるよ』 僕は叔母さんを立てるような言い方で返した。 そしてなぜ叔母さんが強引に泊まれと言ったのか、 何となく解った気がした。 叔母さんと叔父さんは僕にとって親も同然だし、 雫は従姉だけど僕の実の姉みたいなもんだ。 いわば僕は離れて暮らしていてもこの家の家族。 だから娘が、姉が嫁ぐ寂しさが少しでも和らぐなら、 僕がもう一晩くらい泊まっていってあげるよ。 僕はふとテーブルの上のダンボール箱を見た。 『そうしてやってくれよ』 と"彼ら"も言っているような気がした。 FIN (´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************************************     【編集後記・へんしゅうこうき】 ダンボールを音としてアプローチしたのは初めてです。 ただよくよく思い出してみると、 扱う人の感情まで手に取るようにとまではいきませんが、 音でその人の状態が何となくわかる時ってありますよね。 特に、イライラしてるとか怒ってるとかは分かりやすい(笑)。 ボンッ! とか バフッ! て音がよく響きます。 でも同じ  ボンッ! や バフッ! でも、 機嫌の良いノリノリの時はまた違って聞こえたり。 あなたのそばにいる人の、今日のダンボールを触る音、 どんな風に聞こえますか? 今号も最後までお読み頂きありがとうございました。 m(__;)m 8月某日 ライティング 兼 編集長:メリーゴーランド

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