時空超越ダンボール!?■アースダンボール メルマガVOL120■2021年10月号

もし、過去の自分、未来の自分に送れる箱があったら、 どちらを使いますか? どんな風に使いますか? その箱は確かに存在した。だって僕はその箱を使った本人。 でも誰もがその箱を手にできる訳ではないらしい。 本当に必要な人にしか購入ページへのバナーは見えない。 98-2 (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** あの時、僕は人生に疲れた30歳だった。 本当に色々あって、悩んで、辛くて、苦しくて・・・ もう全て投げ出してどこかに消えてしまおうと考えていた。 そうだ、僕の事を誰も知らないどこか遠くの街に行っちまおう。 ボストンバッグ1つでってのは何だし、幸い貯金も車もある。 引越しみたいに荷物をダンボールに詰めて車に積んで・・・ 僕はネットでダンボール箱を買おうとした。 "ダンボール箱" と検索すると"アースダンボール"が出てきた。 『ま、どこでも、ここでいいや・・・』 僕はホームページで回るカルーセルをぼーっと見ていた。 すると・・・こんなバナーが見えた 《過去の自分に送れる箱、未来の自分に送れる箱はこちらです》 98-2 んん?? なに、今のバナー?? 僕が再確認すると確かに、過去に未来に、と書かれていた。 何の冗談かとバナーをクリックし、商品説明欄を見た。 ■この箱を使えるのは人生で1度だけです。 ■発送の際は付属の専用伝票に宛名と受取希望日のみご記入下さい。 ご住所の記載は不要です。地球上のどこに居ても届きます。 ■歴史保全の為、未来もしくは過去の貴方が箱を受領すると、 今の貴方のこの箱に関する記憶は全て消去されます。 ■未来へ送る際で受取希望日までに貴方が亡くなっていた場合、 発送から2日後に貴方に返送されますが2度目の使用はできません。 読み終えた僕は意外と冷静だった。 茶番ならそれでもいい、新しい人生の前にこれで楽しむか。 僕は引越し用の箱のついでにその箱を買った。 _________ 僕はまず過去の自分に送ることを考えた。 道を間違えたのは人生のどこだ?その時何が必要だった? もう散々考え尽くしたはずなのに、僕は再び考えた。 ただ何度考えてもやっぱり同じ結論に至った。 お金以外に過去の自分に送れる物は無い。でもお金じゃダメだ。 どの場面でどんな選択をしても、今の自分に繋がると思った。 僕は視点を未来に移した。 でもやっぱり未来の自分に送ってやれる物も思いつかなかった。 この箱、案外使い道が無いな、と思った。 そして半ば投げやりになった僕は一言だけ書いた紙を箱に入れた。 "今、幸せか?幸せである事を願ってるよ" それは未来の自分への手紙のような物だった。 願いのような、祈りのような、希望のような・・・ 未来の自分へのせめてもの、ささやかな想いだった。 今の俺にはこんな使い方しか思い浮かばないよ。 多分、この箱の本来の使い方じゃないんだろうけど。 僕は受取希望日を10年後の今日にして箱を送った。 これで今の俺の記憶が消えれば、10年後の俺が箱を受領したって事だ。 今から2日後、もし箱が戻ってくれば、僕は10年以内に死んでるって事だ。 これから起こる事とその意味を頭で整理し、2日後を待った。 しかし2日後、箱も戻ってこないし記憶も消えなかった。 10年後の俺、死んでもいないし受領もしてないのか? それともやっぱり騙されたんかな、まあそうだよな。 箱の事は忘れ、僕は旅立った。車を北へ北へと走らせた。 (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** どのくらい走っただろうか・・・ 僕は小さな港町に居た。何となく懐かしい感じのいい街だった。 まだ何も決めてはいなかったがこの街にしばらく居ようと思った。 その夜、僕はこの街の場末の小さな居酒屋に入った。 地元のお客さん達で賑わった店内の一番隅っこの席に座った。 すると一人の店員の女性が注文を取りに来た。 『いらっしゃい、何にします?』 『ビールと、なにかお勧めのつまみをお任せで』 『ビールとおつまみね! ねえお客さん、どこからきたの?』 『ああ、と、東京から・・・』 『ふ~ん、東京、珍しいね~。ゆっくりしてってね!』 『お~い、冬子(とうこ)ちゃ~ん、こっちにもビール~!』 『はいよ~、今持ってくよ~!』 人懐こくってサバサバしてて、親しみあるいい感じの人だった。 冬子さん、ていうのか。この店の看板娘さんなんだろうな。 深夜、店も終わり街も寝静まり、僕は車の中で寝ていた。 すると車の窓を"トントン"と誰かが叩いた。振り向くと冬子さんが居た。 『やっぱりお兄さんの車だった!』 『冬子、さん、でしたっけ、一体どうしたんですか!?』 『まあ別に~、お兄さん何となく行くとこ無さそうだったから。 あ、これお店の余りだけど良かったら食べて!』 『あ、ありがとうございます』 『私は冬子、夏瀬冬子。夏と冬が同居なんて変な名前でしょ!』 『俺は穂高(ほだか)、永井穂高、宜しく』 突然のことでびっくりしたが、僕はありがたくそれを頂いた。 そして僕らは岸壁に腰掛け、海の音を聞きながら話し込んだ。 冬子さんは僕と同い年。家族も身寄りも居ない天涯孤独の身で、 この街で居酒屋を手伝いながらひっそりと暮らしていた。 そして初対面と思えない程一緒に居て安らげる感じの人だった。 『ねえ、冬子さん、なんで、僕に?その、優しくっつうか』 『う~ん、なんか寂しそうだったから、かな』 『まあ、当たってるかも・・・』 『ねえ、穂高、さん、東京の話、聞かせてよ!』 なんか凄い事とかびっくりする事とか不思議な事とか!』 『う~ん、すごい、びっくり、不思議か~、あ、そういえば!!』 僕は彼女に例の箱の事を話した。 『え!?その箱本当に発送したの~!?穂高って面白い~!』 『はは、やっぱりそうだよね、我ながら俺もそう思・・・』 『でも・・・でもなんか素敵・・・』 『素敵・・・?』 『うん、素敵。ねえ穂高、私、その箱が届くの見たい』 『ええ!?それじゃあ10年は俺と一緒に居ないとだぜ!』 『私は、いいよ・・・ほ、穂高は・・・?』 あの箱の話がきっかけとなり、僕達は一緒に暮らし始めた。 (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** 彼女との暮らしはとても質素でつつましやかなだった。 でも僕の人生で一番温かくて安らぎに満ちた時間だった。 僕は幸せだった。彼女をずっと守りたいと思った。 そして2年後、僕達は結婚し、娘にも恵まれた。 そして10年が過ぎ、僕達は箱の配達日の朝を迎えた。 その間も彼女は箱の事をひと時も忘れることなく、 最後の一か月は日々のカウントダウンまでしていた。 たとえそれが嘘でもいい、僕達の縁のきっかけの箱だからと。 __________ 10年前の僕に箱が戻ってこなかった答えはほぼ出せた。 僕は途中で死ななかったからだ。 じゃあ、あの日から今日まで記憶が消えなかった理由は? 僕は今日、箱を受領するのか?しないのか? ピンポ~ン"こんにちは!宅配便です~!" 配達員さんが持ってきたのはあの日の箱だった。 僕は箱を手渡され、受領印を押そうとしていた。 僕がこのまま受け取れば、あの日からの箱の記憶は消える。 消える・・・のか? い、、、イヤだ、消えて欲しくない!! もし消えてしまったら、冬子に箱の話をできなかった。 一緒に暮らそうと互いに言い出せなかったかもしれない。 今の幸があるのは記憶が消えなかったからだ。 記憶が消えなかった答えよりこの10年の方が何億倍も大事だ!! その時ふっと思いついた。 受領しなければ箱の記憶は消えないんだろ。なら・・・ 『すみません、この箱、受取拒否します』( ー`дー´) 配達員さんは一瞬きょとんとした後、 『はい、わかりました』(^_^)と笑顔で箱を持ち戻ってくれた。 僕は箱を受領しなかった。だから記憶が消えなかったんだ。 答えなんてどうでもいいと思った時、 それより大事な物を守りたいと思った時、僕は答えにたどり着いた。 (´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************** もしあの箱を受取っていたら・・・?今でも時々考える。 でもその考え自体が不必要な事も知っている。 だってこの10年間の日々が、冬子に会ってからの時間が、 僕に幸せをくれたんだから。ただどうしても気になって、 今でも時々アースダンボールのホームページを見る。 でもあのバナーを見ることは2度と無かった。 するとアースダンボールから一通のメールが届いた。 メールの送信日は10年前、内容はこうだった。 "今回お買い上げ頂いた箱はいかがでしたか? 宜しければぜひご意見などを・・・・・" 僕はゆっくりと商品レビューを書き始めた。 FIN 98-2     【編集後記】 大事な思い出を胸にしまって強く生きるとか、 だからこそ今を大事に精一杯生きるとか、 時々でもいいので人生の何かのタイミングで、 その事を思い出してみるのも必要なのかなって思います。 さてあなたなら、 過去の貴方に送れる箱、未来の貴方に送れる箱、 どっちをどんな風に使いますか? 購入ページへのバナー、現れるといいですね~^^ 今号も最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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