ダンシング・ダンボール ～前編～■アースダンボール メルマガVOL７８■2020年1月号
僕はガソリンスタンドで働いている。
正社員とはいえ新人の僕は、実質何でも屋だ。
ある時、僕と先輩の二人が店長に呼ばれた。
最近お客様の入りがあまり良くなくて、
スタッフも少し余り気味な日々が続いていたから、
多分そのことと関係があるのだと思う。
それはいいんだけど、僕があんなふうになるなんて。
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『二人ともわかっているとは思うけど、
最近お客様の入りが少なくて人が余り気味でな。
そこでだ・・・
二人にお客様の呼び込みをやってもらいたいんだ。
ただ、予算をかける訳にもいかなくてな。
それで考えたんだが・・・お前、これかぶれ！』
店長はそう言って僕を見ながら脇にあるダンボール箱を指差した。
『か、、、かぶる！？』
『そう、お前がこの箱でかぶりものを作る、
で、お前がかぶる。で、入り口で呼び込みをする』。
店長は、先輩、僕、の順で指差しながら言った。
『え、、ええ！？ ええええ～！！！？？』
僕と先輩は仰天した。
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先輩は面倒くさそうながらもロボット風なものを創り上げた。
ちなみにそれはなんとも、ダサイ。めっちゃダサイ。( ´д｀ll)
小学生の文化祭レベル以下・・・
でもああだこうだ言ってられない。これは仕事だ。
僕はかぶった。
そして店の前を通る車に呼び込みアピールをした。
『恥ずかしい・・ああ恥ずかしい、めっちゃヤダ・・・』
きっと、僕の呼び込みは最低だったに違いない。
むしろ、何件かのお客様を逃した可能性が高い。
数日が過ぎ、どうすれば効果が出せるか僕は真剣に考え始めた。
よし、まず本気でやろう。恥ずかしいなんて言ってちゃだめだ。
そう決めた僕は、どんなパフォーマンスをするか考えた。
そこで浮かんだのが・・・ブレイクダンス・・・！！
ブレイクダンスと言っても、
激しい回転の動きからロボットみたいなカクカクした動きまで様々で、
僕は後者の方をＹＯＵ ＴＵＢＥで研究しまくった。
そして僕はダンボールロボのブレイクダンスパフォーマンスを始めた。
決して上手いとは言えないパフォーマンスだったが、迷いだけは無かった。
そのせいか、パフォーマンスは少しづつ受け入れられていった。
いつしか『踊るダンボールロボのガソリンスタンド』と噂されるようになり、
お客様が投稿した動画の再生回数が数十万にもなった。
店長も先輩も、そんな僕を認めてくれた。
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そんなある日、僕は休日のドライブを楽しんでいた。
そして信号待ちで停車した時、前の車をよく見ると、
後部座席の子供が振り返ってこちらを見てる、ように見えた。
僕は調子に乗ってその子に『アイ～ン』とやってみせた。
するとその子は急に笑い出し、めっちゃ喜んだ！！、ように見えた。
『あ、、、こ、これだ！！』
ブレイクダンスに往年のギャグ要素を取り込んでみよう！！
アイ～ンでしょ、
シェー！！も入れよう、
ガチョ～ンも、まあ入れてみるか、
そんなのカンケーネー、はもうダメかな・・・
コマネチ、はやめとこう・・・
ギャグの年代も幅広くとった（つもり）のも功を奏し、
特に子供達にはウケていたようだった。たぶん。
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
僕のパフォーマンスの腕も更に上がってきた頃、ある車が来店した。
僕もよく知っている車で、月一くらいで日曜日の夕方に来店される。
車種はミニバン。
サッカーのユニフォームを着ている子供達を５～６人載せていて、
その中の誰かのお母さん？ らしき人が運転している車だ。
そして、来店する度に子供達の様子がえらく違うのが印象的だった。
ある時はきゃっきゃきゃっきゃと楽しそうに騒いでいて、
ある時はえらく落ち込むようにうなだれている。
たぶん、試合に勝った日と負けた日の違いなんだろう。
さて、今日の様子は・・・？
えらく静かで、全員が静かにうつむいていた。
あら、今日は負けちゃったのかな？ しかも大敗だったのかも。
『この子達を笑顔にしたい』というこの時の僕の感情は、
とても自然のものだった。
僕はこの子達に向けて精一杯の魂のパフォーマンスをした。
でも全員が下を向いていて、なかなか見てももらえなかった。
そしてやっと、一人の子が静かに顔を上げてこっちを見た！！
その子はゆっくりと、でもはっきりと、にっこりと笑った・・・
そして隣の子の肩を叩き、
『ねえ、アレ見てみなよ』というしぐさでこちらを指差した。
一人、また一人、笑顔になった。
そして遂に・・・みんなが笑顔になった！！！
みんなの笑顔を見たドライバーのお母さんも、笑顔になった。
きっと、ここまでの車内は重い空気だったんだろうな。想像だけど。
そして僕はお帰りの安全確認をしながら
"オーライオーライ！ありがとうございました～"のパフォーマンスで見送った。
その時、ドライバーのお母さんが僕に向かって親指を立てて何か言った。
よくは聞き取れなかったけど『ありがとう。グッジョブ！』
と言ってくれたようだった。たぶん。
僕はふと、店長がダンボールを指さしながら
『これをかぶれ』と言った日のことを思い出し、店長の方を見た。
店長も僕に親指を立てて『グッジョブ！』のポーズをしてくれた。
ガソリンスタンドのスタッフがダンボールロボット。
なんとも変な仕事だ・・・でもいいや。
誰かが笑顔になってくれるならさ。
ＦＩＮ
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【編集後記・へんしゅうこうき】
ダンボールは誰もが入手しやすい素材。
でもその分、人に見せる(魅せる)何かを作ろうとした時、
幾分かの工夫や努力をしないと安っぽく見える時もありますよね。
でも・・・
例えばそれが被り物なら、被る人の心の持ち方次第では、
一見安っぽくても最高の宝物を得ることができる。
最高の宝物、それは他でもない、誰かの笑顔。
私達はダンボールを買って下さる貴方の笑顔が見たいのは勿論、
そのダンボールを通じて貴方の大切な誰かも笑顔になって欲しいと思い、
毎日の仕事に取り組んでいます。
商品に同梱されるアースダンボール通信も、アスダンプ新聞も、
ホームページもそう。
勿論このメルマガも。
最後までお読み頂きありがとうございました。
次号はこのお話の後編です。
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１月某日 メルマガ編集長 やまぎし
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