宅配ドライバーが辞められない■アースダンボールメルマガVOL214■2025年9月号
私は宅配ドライバー失格かもしれない。
どの荷物も平等に大切に運ぶと決めていたのに、
たった一つの荷物に特別な重みを感じてしまった。
それとも私は真面目過ぎなのかな?
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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私は間宮潤子(まみやじゅんこ)、28歳の宅配ドライバー。
やれ働き方改革だの2024年問題だのと話題の業界だけど、
宅配ボックスや不在置きが普及てくれたのは確かにありがたい。
でも代引きの荷物はやっぱりそうはいかない。
色んな工夫をしても再配達を0件にすることは不可能だ。
それでもお客様から預かった大切な荷物。
責任を持って安全にお届けするのが私たちの使命。
だから1件1件の荷物はみんな同じ重み、のはずなのに、
私はある荷物に特別な重みを感じてしまった。
それはいつものように代引き荷物を配達する時だった。
前電話してもコールのみ。まあいいや、行ってみよう。
到着した家のインターホンを鳴らすも反応なし。
しゃあない、気持ちを切り替えて不在票を書き始めた時、
玄関のドアがゆっくりと開いた…
「はあい、だれ?」
見たところ私より少し若い?くらいの女性。
でも髪はぼっさぼさで服もヨレヨレ、
死んだ魚のような目で生気をほとんど感じない…
「あ、宅配便です。代引きになります!」
「ああ~、なに買ったっけ?ってか今お金ない…」
「そうですか、では再度伺います。いつが宜しいですか?」
私は淡々と仕事を進めた。
「あ~、お姉さん、ちょっとだけ待っててくれない?」
「はあ…」
「今すぐそこのコンビニのATMでおろして来るから」
「え…と、どのくらい?」
「5分くらいで戻るから」
5分ならと思い、私は待つ事にした。
しかし、10分、20分経過しても女性は戻らない。
玄関は鍵が開いたまま、離れる訳にもいかない。
イライラMAX状態直前の25分後、女性は戻ってきた。
しかも何やら買い物までしたらく袋をぶら下げて…!!
その日はそれ以降、1件に30分もかけた後悔をずっと引きずってしまった。
「あんな家二度と行きたくない!今度会ったらバチっと言ってやる!」
最後にこう一言だけ毒づいて忘れる事にした。
__________
それから一週間くらいしたある日、
仕分け中のとある荷物に見覚えのある住所と名前があった。
「うわ、あの家だ…しかもまた代引き!?」と一瞬口に出したが、
「いやダメダメ、大事な荷物、仕事!」と気を取り直した。
そしてルートを順調に回りその家に到着。
恐る恐る、私はインターホンを鳴らした。
するとすぐに「はあい!」と明るい声がして玄関がスッと開き、
清楚で健康的で、礼儀正しそうな女性が出てきた。
「あ!あの時のドライバーのお姉さん、良かった、会えた!」
「あ、会えた?ってどういう…?」
「お姉さん、お仕事終わるの何時ですか?少しお時間頂けませんか?」
「えっと、あの、はい…大丈夫、ですけど」
先日とはまるで雰囲気の違うその女性の勢いに圧(お)され、
私は終業後に再度その女性の家を訪れた。
聞けば、彼氏への誕生日プレゼントを通販で買ったものの、
購入直後に別れ話になってしまったらしい。
私が最初に配達した荷物が正にそれで、その時彼女はドン底真っ最中だった。
いっそどうにでもなれ、誰に迷惑かけようが知ったこっちゃない、
むしろ誰かに迷惑でもかけてやる、という程に我を失っていたらしい。
でも時間が経って落ち着いてきて、私への非礼を詫びたいと思い、
代引きで何か買えば再び私に会える、と考えたらしい。
普通に営業所に問い合わせても良かったのだけど…
でも話してみれば普通の女の子、いやむしろとても感じのいい子だ。
それに不思議と、以前もどこかで、例えば前世とか?
そんな繋がりをふと感じる程に気が合う子だった。
そして何より、彼女の彼への想いだ…
私自身が過去に経験した辛く激しい大失恋と彼女が重なり、
今までない程に彼女の恋心に感情移入した。
私達はあっという間に親友になった。
_________
それから更に二週間が過ぎた頃、
いつものように話に花を咲かせていた時、
私はふと思い出し、彼女に尋ねた。
「ねえ、そう言えばあの時のダンボール箱、どうした?」
「今も置いてあるよ」
「中身も?」
「うん」
「そっか…」
「うん…あ、あのさ…」
少し間があった後、彼女は何かを言おうとしたが引っ込めてしまった。
でもその話をこのまま終えてはならないと、何故か私はそう感じた。
「因みに彼の誕生日っていつ?」
「明後日…」
「そっか、明後日か…」
「うん、そう、明後日、あさって…なの」
彼女はやっぱり何かを言いたそうだったが、私はそれを待たなかった。
何故だろう、私が先に言わなければと思ってしまった。
「あのさ、届けてこようか?私が…」
彼女は私の目をじっと見て「うん」と言って首を縦に振った。
「これで最後、最後にする、私ちゃんと終わりにする。
でも私、どうしても自分じゃ渡しに行く勇気が出せなくて、
でも潤子ちゃんが届けてくれたら私、きっと終わりにできそう…」
「わかった、任せろ!」
「あのね、私いっぱい考えて潤子ちゃんに届けて貰おうと思ってたけど、
やっぱり言い出せなくて…先に言ってくれてありがとう」
「そんな気がしてた。うん、しっかり届けて来てあげる、私プロだから。
ま、今回は仕事じゃないけどね」
「ありがとう、そしたら私も今度こそ、最後にちゃんと勇気出すから」
「あんたはもう、充分に勇気出してる…」
________
それから半年が経った。
私は今も宅配ドライバーとして毎日沢山の荷物を配達している。
そして彼女も元気にOLしている。勿論、私達は今も仲良しだ。
あの時の選択が良かったのか悪かったのか今もわからない。
ただ覚えているのは、彼女から預かった荷物がすごく重かった事だ。
実際の重量は軽い荷物なのに、すごく、すごく重かった。
そして今でも時々考える。
私は宅配ドライバー失格かもしれない。
どの荷物も平等に大切に運ぶと決めていたのに、
たった一つの荷物に特別な重みを感じてしまった。
それとも私は真面目過ぎなのかな?
あれ以来、毎日運ぶ沢山のダンボール箱の一つ一つにも、
誰かのあんな想いが込められているのかと思うと、
それがプレッシャーに感じる時もある。そんな時はやっぱり重い。
それでも私は運ぶ。届ける。
あの時、全て終わった後に彼女の目から流れた涙と笑顔が、
私を強くしてくれる。
FIN
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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あ と が き
すごくお世話になった人は居ますか?
すごく感謝している人は誰ですか?
家族、友人、仕事関係の人、通りすがりの人、
絶対に忘れられないくらいお世話になった人、
貴方にもきっと居ますよね。
でもね、これは多分、いや絶対に、
貴方も誰かにそう思われてるはずです。
ええ、きっとそうです。
それに比べれば軽い一言かもしれませんが、
いつものように言わせて下さい。
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド
