その縁談屋はしくじらない■アースダンボールメルマガVOL215■2025年9月号-2

その角を曲がると、 まるで夢の世界に引き込まれたようないい香りに出会う。 焼きたての香ばしいパンの香りと、 淹れたての上品なコーヒーの香りのコラボって最強だ。 そこは、誰もが寄らずにいられなくなるこの街の人気店。 今日その店で、しめやかに葬儀が行われています。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** その店はこの街のみんなに愛される憩いの場。 焼きたての、それはそれは美味しく、そして優しい味のパンと、 マスター独自のブレンドでファンを魅了し続けるコーヒー。 それを一緒に楽しめる街のベーカリー喫茶。 パンは奥さんが焼き、コーヒーはご主人、マスターが淹れる。 ご夫婦で経営されているお店です。 そんな街の人気喫茶でお葬式?なんで?って思いますよね。 では、今からそれをお話し致しましょう。 _________ 元々はこのお店、ご夫婦が結婚する前は別々のお店だったんです。 今のマスターが経営する喫茶店と、奥さんが経営するパン屋さん。 お二人は20代の若さでそれぞれ自分の店を持って、 偶然、同じテナント内のお隣同士に店を開いたんです。 開店当初の頃からどちらも人気店になり、 パンを買ってからコーヒーを飲む、 コーヒーを楽しんだらパンを買って帰る。 大抵の常連はこんな風に2つの店を行き来してたんです。 店長同士も互いの店を尊重し合いながら営業していました。 ただ、常連さんからするとやっぱり2店舗の行き来は面倒。 そこでご主人の方がパン屋さんのパンをフードのメニューに加えたんです。 パン屋さんとしてもそれは大歓迎でしたし、 お客さんはパン屋さんのパンとコーヒーを一緒に楽しめるようになりました。 でも、それでもまだ何か足りないと常連さん達は気づきました。 そう、常連さん達はパンとコーヒーの味を愛しているのは勿論、 二人の店長を慕っていたんですよ。つまり、 どうせなら同じ店になっちゃえばいいのに! と思ってしまった訳なんです。 一見すると常連達の勝手な望みでしかありませんが、 それだけみんなに愛されていたお店だったんです。 そして、千代さんもそう思う一人でした。 千代さんは、いわゆる縁談のまとめ屋さん。 仕事でもボランティアでもないけれど、 どうやってか年頃の男女の縁談をまとめてしまう、 言ってしまえばただの世話好きというか、それでも、 "縁談話ならあの人に相談してみよう" と言われるくらい、 周りから一目置かれる存在のおばちゃんが、 昔は大抵どこにでも、沢山いらっしゃったんです。 今じゃマッチングアプリや結婚相談所なんて便利なシステムがありますが、 完全なアナログの時代、人と人を人だけで結びつける存在、 そんなおばちゃん達が、ある意味日本の婚姻事情の一端を担っていたんです。 その中でも千代さんは"神の目"の呼び名を持つ程の凄腕の縁談屋さんでした。 ただ縁談屋と言っても男女を誰でもくっつけてしまおうというもんじゃない。 互いをよく観察して、人となりを知って、二人は必ずいい夫婦になる、 そう判断した時以外は動かないもんです。 その中でも千代さんの眼力は超一級品。 千代さんが取り持った夫婦は皆円満で幸せな人生を送っていました。 その千代さんの最高傑作とも言えるのが、 このベーカリー喫茶という訳です。 ________ ただ、この時に千代さんが取った方法はちょっと珍しかったんです。 いつもは対象の男女それぞれにストレートに意図を伝えるのですが、 なぜかこの時は一芝居、それも誰もがわかる様なわざとらしい芝居を打ちました。 方法はこんな感じでした… パン屋さんには毎週水曜日の午後3時頃に、 仕入れ品が入ったのダンボール箱が宅配便で届くのですが、 その時間に千代さんは喫茶店でコーヒーを飲みながらスタンバイ。 宅配便が来るや否や何故か千代さんがサッと出てダンボール箱を受け取り、 すぐに店内に戻ってマスターに向かって、 「あら嫌だわ!マスターんとこの荷物だと思って代わりに受け取っちゃったわ!  マスター、これお隣さんに持ってってあげてよ!」 ってな具合。勿論、宅配便さんも千代さんのグル。 "千代さん何やってんだろう?" と思いながらもマスターはお隣さんへダンボール箱を運び、 「これ、千代さんがうちのだと思って受け取っちゃったみたいで」 と渡して来ました。 すると千代さん、今度はパン屋さんへ行って、 「さっきはごめんなさいねえ、  このダンボール、マスターが運んで来てくれたんでしょう?  お礼にマスターを食事にでも誘ったら?」 という具合に奥さんがマスターを誘うよう仕向けたんです。 何年か経って奥さんがこの時の事をこう言っていました。 「あの時、なんでダンボール運んで貰ったくらいで食事に誘うの?  とも思ったんですが、千代さんの目が全てを語っていたんです。  "誘いなさい" って。  余りにも幼稚でワザとらしかったけど、そこはどうでも良かったんですよね。  千代さんのあの目を見る事が重要だったんです。  "好きなら誘いなさい" と口で直接言われるよりも私の心に刺さりました。  千代さんにはバレてたんですよね、私がお隣のマスターを好きだった事が」 そして二人は無事に、ついでに言えばみんなの期待通りに結婚し、 店も改装して一つになり、千代さんの目利き通りに長く愛れる店になりました。 この時以来、すでに天涯孤独だった千代さんを、 ご夫婦が実の母のように慕ったのは言うまでもありません。 そしてそれから40年、今日はその千代さんのお葬式。 ご夫婦が、千代さんが好きだったあの香りの中で送ってあげたいと、 店にはいつもと同じ、あのパンとコーヒーの香りが漂う、 心に残るいい式になりました。 そうそう、実はその時のダンボール箱が、 今も店の隅に飾られてる?置かれてる?らしいですよ。 あなたも今度行ったら見てみればいいですよ。 え? 私ですか? 私は、この店の只の常連の一人です。 以前はこの街で宅配便のドライバーをしていた時代もありましたね。 FIN 98-2 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п ****************************     あ と が き あなたが好きな街の人気店、ありますか? もしかしたら、あなたが人気店の人なのかもしれませんね。 人気店って不思議で、閉店してしまうと、 普段その店に行かなかった人でも少し寂しい気持ちになってしまう。 私もそんなお店の閉店をいくつも見て来ました。 私は大型ショッピングモールも好きです。 そして小さな人気店が沢山ある文化も好きです。 これからの日本はどんな風になっていくんだろうな? 今号も最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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