現実はRPGより奇なり■アースダンボールメルマガVOL212■2025年8月号
なんで僕が1番じゃないんだ!?
僕の前には既に200人を超える列ができていた。
販売開始までまだ20時間、入荷予定数は不明。
果たして買えるのか?買えないのか?
僕は不安を抱えたまま列の最後尾に並んだ。
(´o`)п(´o`*)п(´o`*)п
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あれはもう20年以上も前、
当時、世界的に大ブレイクした超人気RPG新作発売日の前日。
高い競争率は覚悟していたし、だからこその20時間もゆとりをとった。
…はずなのに!!こうなったらしょうがない、信じて待つしかない。
で、その20時間どう過ごすかだが…
長時間待ちの列に並ぶ場合、途中に列を離れられる状態が望ましい。
つまり最低でも二人以上、もしくはパーティでの参戦が理想だ。
勿論、友達の並ぶ場所に後から入り込むのはルール違反だ。
しかし僕の友達は全員都合つかず、今回は僕一人での参戦。
決まったな、最初のミッションはバディ探しだ。
前の人か?後ろの人か?
すると僕の後ろに年頃が同じくらいの男子が一人で並んだ。
すぐさまその男子に声をかけると、彼は快くバディを了承してくれた。
「宜しくお願いします、僕も同じ事考えてたんで!」
こうして僕らは冒険を共にするバディになった。
僕の名前は一揮(いっき)、彼の名は玲央(れお)、共に17歳。
まさに20時間と言う冒険が始まる序章だった。
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本やらポータブルゲームやら暇つぶしアイテムを持っては来たが、
今みたいにスマホも無い時代、話し相手が居るのは心強かった。
しかし2~3時間経過した頃にふと気づいた。
ピクニックシートっぽい物は持ってきたが、ずっと地べたも実は厳しい。
キャンプ用の軽い折り畳み椅子でも持ってくれば良かったが、
その時の僕にそんな知恵は無かった。
そして僕は "あれ" がどこかに無いかと辺りを見回した。
すると少し離れた店の横に、
「ご自由にどうぞ」と書かれた "あれ" を沢山発見した。
廃棄ダンボール箱だ。
あった!!僕のあんまり役に立たないユニークスキル発動!!
僕は列を抜け、コンビニでカッターとテープと紐を買い、
そのダンボール箱を2つ貰って列に戻った。
「そのダンボールなにすんの?」
「まあ見てなって」
僕は慣れた手つきでダンボール箱を加工して椅子を作った。
「ほれ、座ってみ!」
「おおおお~、これはいいねえ」
「だろ!これが僕の唯一のスキル、ダンボール椅子造り」
「いやマジ良いよこれ、助かるわ」
かなり簡易的だけど耐久性は充分、地べたにずっと座るよりも楽だった。
すると、それを見ていた僕らの前の二人組が話しかけてきた。
「あの~、ダンボール箱あったらそれ作って貰えますか?」
「いいですよ、まだそこのお店に何枚かありますし」
「ありがとうございます!お礼に順番代わりますよ」
「ほんとですか!?やりますやります!」
僕らのパーティは一歩だけ購入ミッション達成に近づいた。
すると今度は、それを見ていたその前のグループからも、
「あの~、僕達のもいいですか?勿論、報酬は順番入れ替えで」
と頼まれ、僕達は更に前に進んだ。でもそれだけでは終わらなかった。
「僕達も頼みたい!」
「俺達もお願いしたいです!」
と5~6グループからも声がかかり、店の廃棄ダンボールが無くなった。
そしてその一帯にはダンボール椅子コミュニティが出来上がり、
他グループ同士での情報交換や雑談などの交流も盛り上がり始めた。
なんだかみんな楽しそう…僕らも順番が進めたし!
辛く長い待ち時間を想像していただけに嬉しい誤算だった。
それになんと言っても元々は同じゲームの愛好家同士。
きっかけがあればすぐ仲良くなれるものなんだな。
そんなこんなで気分よく待ち時間を過ごすこと数十分後、更なる注文が舞い込んだ!
僕らより更に前の数グループの"代表者"と思(おぼ)しき人が僕らの元へ来て
「私の家、このすぐ近くで商売やっててダンボールが沢山あって、
軽トラで持って来るんで希望者の分を作って貰えませんか?」
と言ってきた。こうなったらもう断る理由なんかない。
「じゃあ数が多いんで皆で作りましょうか、僕が教えますよ!」
と急きょ、野外ダンボール椅子造り教室が開かれた。
ゲーマーにとっては新鮮な世界だったんだろうか?
それとも長い待ち時間の中でただ楽しさに飢えていただけなのか?
ダンボール椅子コミュニティは一気に"組織"を拡大させた。
まるで列の全員が最初から知り合い同士だったかのように打ち解けた。
きっと一般の通行人には列のみんなが "仲間" として映っていただろう。
僕は列を離れて少し遠くからこの様子を眺めてみた。
「これ、もしかして俺がやったんか…
スキル使って仲間増やしてって、RPGじゃん」
僕は怜央(れお)の待つ列に戻り、長い夜は更けていった。
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翌朝…
そんなこんなで僕と玲央(れお)のコンビは
前から50人目くらいまで昇り詰めていた。
因みにここより前の人達は真の強者揃いだ。
長時間待ちのベテランも多くて準備も万端。
アウトドア用の折り畳み椅子やミニテントなど、
殆どの人が様々なアイテムを持参していた。さすがだ。
そして午前10時、開店時間。
お目当てのゲームも無事にゲットできた。
椅子を作った人達には「必ず持って帰って」と約束してた為、
誰一人としてゴミを残す事は無かった。みんなマナー良いぜ!
因みに最初に並んだ順番でも充分に買える数量があったようだけど、
玲央やその時に仲間になった何人かとは今も繋がっているし、
ゲームをプレイするだけじゃ得られない沢山の物を僕は得た。
ただ、今になってよくよく冷静に考えればさ、
そうは言うてもたかがダンボールの椅子だぜ、大した物じゃないじゃん。
それでもあれだけのコミュニティができちゃうんだから、
長時間待ちの列に住む "魔物" の仕業か、
或いは "長時間待ちHigh" ってやつなんだろうか?
いずれにしても現実はRPGより奇なり、だ。
因みにもう一つ現実的な話をすれば、
その後も何度か長時間待ちに参戦はしたけど、
ダンボール椅子を作る事は二度と無かった。
だってアウトドア用の椅子の方がやっぱり楽なんだよね。
FIN
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あ と が き
インターネットやスマホが無かった時代と
それが普及した今の時代の違いって、
色々ありますよね。
良い事と良くない事、得たものと失ったもの、
沢山の実感がありますよね。
私がいつも思うのは、
大切な人と過ごした後、それぞれの家に帰る時。
例えば電車で帰る恋人をホームで見送った後の、
次に会えるまでの、話す事もできない切ない時間と、
電車で帰る恋人をホームで見送った後、
すぐにスマホでメッセージを送れてしまう差は、
大きいというかなんというか、
もはや比べる事さえできないと思える程に、違う世界観を感じます。
この違い、貴方にはどんな思い出がありますか?
今号も最後までお読み下さりありがとうございました。
m(__;)m
ライティング兼編集長:メリーゴーランド
