最強のキミと最凶のボクが出会ったら -後編-■アースダンボールメルマガVOL167■2023年9月号-2

~前回までのあらすじ~ 僕の名前は笠原守(かさはらまもる)、24歳、新人社員。 自他共に認める "ダンボール運が最凶に悪い男"。 ダンボール箱を持てば高確率で底が抜け、 ダンボール箱を運べば必ず一番重い箱に当たり、 大事な物をダンボール箱に仕舞えば箱ごと大破、 ダンボールで作った舞台装置は本番中に総崩れ、 大量の女性下着入りダンボール箱のせいで下着泥棒の冤罪になりかけ、 ・・・と、正に人生の特異点、とにかく神がかりの最凶運だった。 でも "この運の悪さは全てこの為だったんだ"という瞬間が いつか必ず来てくれると夢見て生きる僕の目の前に、 "ダンボール運が最強に良い女性" 灘(なだ)さつきさんが現れた。 彼女と初めて会った日、彼女は見事に僕の最凶運を"中和"して見せた。 以来、ダンボール事はことごとく彼女が助けてくれ、 やがて僕は彼女に魅かれ、プロポーズ、そして結婚。 でも、彼女は僕と結婚して本当に良かったんだろうか・・・? 前号の全文はこちらです↓↓ https://www.bestcarton.com/profile/magazin/2023-sep.html _________ 結婚生活は幸せだった。 子供にも孫にも恵まれ、楽しい思い出も、辛く悲しい思い出もあった。 決して富裕でもなく貧困でなく、多分、普通な事が多くて、 大多数の人が経験するような人生の波が私達にはあった。 ダンボール運もそうだった。適度に良くて適度に悪くて、 いや、もしかしたら相変わらず悪かったのかもしれないし、 本当はすごく良かったのかもしれない。一つ言えるのは、 たとえそれがどんな結果でも受け入れて来れたという事だ。 運の良し悪し全てがこれで良かったと、彼女との人生はそんな風に思えた。 ただそれゆえに、ずっと聞けなかった事がある。 ありがたくも金婚式の今日、僕はそれを聞いてみようと思う。 "空気読まない人"と言われるのは承知の上で。 『なあさつき、僕と結婚して幸せだった?』 彼女はすこしキョトンとしていた。 『なあに?今更。金婚式なんてすごい事よ』 『うん、そうなんだけど。時々ふと若い頃を思い出してしまうんだ。  もしかしたら、君はもっと幸せな人生が送れたんじゃないかって』 『あなたがダンボール運の事を口にするなんて久しぶりね』 『うん、君はあの運の良さがあればもっといい人生があったかもってさ』 『あの時、あなたに出会った日、私、言ったわよね。  "この特異点があまり好きじゃない"って』 それから少し間をおいて、彼女はこう続けた。 『案外つまらない物なのよ、ダンボールだけとは言え自分だけ運がいいって。  運が悪い人から見ると"なに贅沢言ってんだ"って思うでしょうけど。  けど、やっぱり辛くてきつい時ほどそれに頼りたくなってしまうのよ。  それから・・・  それをあてにした人生は自分の実力や努力の意味はあるのかしらっていう疑問とか、  それだけに頼った人生を送って、もしどこかでその運が尽きたらっていう怖さとか、  そんな事とか色々、本当に色々あったのよ』 僕は彼女と初めて会った日の事を思い出した。 あの日も、今みたいに遠い目をして "色々" って言ってたっけな。 僕は黙ってそのまま聞き続けた。 『だから案外、孤独でもあったのよ。少なくとも私にはそうだったわ。  だから私は、むしろそれを誰かと分かちあえたらなってずっと思ってたの。  誰かの為にこの運を活かせたら、自分じゃなくて誰かを喜ばせられたらって。  そしてあなたと初めて出会った日に思ったの。  私のダンボール運がこんな風に活かせるなんて!!って。  私の特異点を最大限に活かせる世界でただ一人の人だわ!!ってね。  これって偶然かしら?  ううん、偶然かどうかすらどうでも良かったのよ』 『出会ったって、自分と真逆の運じゃリスクが大き過ぎるじゃないか』 『リスク・・・そうね。確かにそう。  ただあなた、こう考えてみて。  一生のどこかで "世界中で自分にしかできない事" が見つかったらって。  あなたならどうする?』 『自分にしかできないなら、そりゃやるよ、やっぱり』 『そうでしょ? ならその先はシンプルよ。  私はそれを見つけたの。さて、それは何でしょう・・・?  聞きたい?』 『ああ、ここまで聞いたら、ぜひ・・・』 『それはね、あなたを幸せにする事』 彼女は続けた。 『だってそれって、他の誰でもない、私にしかできない事でしょ?』 『・・・・』 『・・・って、色々偉そうに言っちゃったけど。  裏を返せばとっても強引な考え方。上から目線もいいとこだわ。  だって私が持っていたのはたかがダンボール運。ただそれだけだもの。  私以外にあなたを幸せにできる人もきっと居たと思うわ。  でもこのダンボール運は良くも悪くも私の人生ではとても大きな物で、  一人じゃ抱えきれないものでもあって・・・  本当はこの運を理解してくれる誰かに、側にいて欲しかった。  そんな時にあなたに会えて・・・だから私の方こそ、ありがとう。  あなたを幸せにしたいっていう、私のわがままを叶えさせてくれて』 彼女は初めて、胸の内を話してくれた。 『だからね、もし私の人生に後悔があるとすればそれはあなたが、  "私があなたと出会った事で私の運を無き物にした"って思う事よ。  だからね、お願い、もし少しでもそう思ってるなら、  それを今すぐ消してちょうだい、全部消してちょうだい。  お願いだから、今すぐ全部、今ここで!  でないと私・・・私は・・・』 『うん、そうだよな、すまん、な、泣かないでくれ、』 『それに・・・それにきっかけはダンボール運であれ何であれ、  一緒に生きたいと思った人と、今もこうして一緒に生きているんだから、  それ以外の幸せを想像する必要があるかしら?私はそんなの要らないわ。  だから、たとえ今この場で互いのダンボール運が消えたとしても、  私達は変わらない。今まで通り、これからもずっと』 そうか、そうだったんだ、今わかった。 彼女の運の良さも、僕の運の悪さも、 僕達が生まれた時からあるべくしてあったものだったんだ。 僕たち二人の夢は、ずっと昔からもう叶ってたんだ。 FIN 98-2 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п ****************************     【編集後記】 今号の結末はいかがでしたか? 運の感じ方には二つあると思うんです。 リアルタイムで良し悪しを感じる場合と、 時間が経ってから "そういえばあの時は" と良し悪しを感じる場合です。 それと繋がりますが、今が幸せなら過去の良し悪しも実は全てが良かった、 結果良ければ全て良し、的な考え方もありますよね。 だったら、だったらですよ、今、運が悪いと感じているとしても、 未来の良い結果を先取りしてしまって、 実は今も運がいいんだ!! と思ってしまってもいいって事ですよね? やっぱりなんか変でしょうか? 今号も最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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