大和撫子はダンボールに囲まれたい■アースダンボールメルマガVOL173■2023年12月号-2

立てば芍薬(しゃくやく) 座れば牡丹(ぼたん) 箱持つ姿は、百合(ゆり)の花… 彼女を見てそんな言葉が頭に浮かんだ。 彼女は、重いダンボールを一生懸命に運ぶ彼女の姿は、 美しい百合の花そのものだった。 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п **************************** 私は木崎環奈(きざきかんな)22歳の仕事大嫌いフリーター。 職場は海外人気雑貨の大手インポート会社、の倉庫スタッフ。 毎日沢山の商品とダンボール箱に囲まれてる。 さっきも言ったけど私は仕事が嫌い、労働全般が嫌いね。 こうもはっきり言う人もなかなかいないかもしれないけれど、 実はみんな口で言わないだけで、私は平均的なんじゃないかしら。 そりゃ全く働かないで生きていこうとまでは思ってないけど、 少なくとも充分なお金があったらここじゃ働かないわ。 ほとんど肉体労働、マジでキッツいんだもん。 お金があれば私の悩みなんて全部消えるのよ。絶対そう。 そう思っていたんだけど… そんな私の淡くて脆(もろ)い信念はあっけなく彼女に崩された。 それだけじゃない、私の中で彼女の素敵さはどんどん大きくなって、 とうとう百合の花になっちゃったのよ。ホント驚きだわ。 __________ 彼女は堂本百合子(どうもとゆりこ)さん、33歳主婦、一児の母。 パートさんとして先月からここで働き始めた。 私は彼女の事をそんなに知らないけれど、ちょっとした有名人だ。 ご主人は超有名企業の役員で住まいはタワマンの上層階。 わざわざ20kmも離れたここへの出勤は自分専用のBMW。 身なりも礼儀も性格も、なんなら頭脳もユーモアも申し分ない。 志望理由は"輸入雑貨が好きだから"とそれだけだったらしい。 "なんでわざわざ働くんだろう?" と誰もが思う、疑いようもないお金持ちだ。 彼女を面接した採用担当者も、 『なんであの人を採用したの?』と皆によく聞かれている。 『不採用にする理由が無いから』と担当は言ってはいるけれど、 そんな当たり前の答えすらどこか不思議に思えてしまうのが彼女だった。 その彼女の不思議さ加減を更に増したのが、その働きぶりだった。 最初は"線の細いセレブ奥さんにこの仕事が務まるのか?" と思われたものの、その予想は速攻で、しかも大幅に覆された。 彼女は誰よりもきびきび動き、重い荷も率先して持ち、 覚えも早く動きも正確、周りとの協調も気配りもできる。 ホウレンソウも完璧でアイデアも豊富、業務改善の意見も言える。 誰よりも本物の大汗をかいて仕事に取組み、成果も出す。 私と同じパートでありながら。 何もかもが私と大違いだった。 普通、綺麗で仕事ができる人って妬まれたりする場合も多いじゃない、 と歪んだ私の思考なら考える所だけど、彼女の場合は全然逆で、 日を追うごとにみんな彼女を好きになる。人気者になっていく。 こんな私でさえ、いつしか彼女を尊敬し始めている自分に気づいたくらいだ。 いつの間にか私から彼女に話しかける事が増え、彼女も私に話しかけてくれ、 今ではこの職場の数少ない女性同士、姉妹のように仲良くなった。 "仕事大嫌いフリーター" の私が、仕事が楽しいと感じるようになって、 "もうちょっと頑張ろっかな" なんて事すら、時々だけど思うようになった。 _________ しかし、そんな風に彼女が職場で人気者になればなる程、 みんなは "なんで彼女は働くんだ?" と疑問に思うらしい。 私にはそんな事どうでも良かったのだけど。 そんなある日、彼女と一緒のお昼休憩での事… 『みんなが言うんですよ。何で百合子さんは働くんだろう、って』 『私が働く理由?』 『そうそう、そんな事どうでもいいのにね』 『…木崎ちゃんは、全く気にならない?』 『全くと言えば、まあちょっとは。だけど…』 『だけど?』 『単純に百合子さんの事なら、知りたいかな』 『あはは!木崎ちゃんってホント素直!』 そう笑いながら百合子さんは、"誰にも言ったこと無いけど" という前置きをして話してくれた。 それは想像したよりもずっとシンプルで、でもとても複雑で、 懸命に考えても私の頭じゃどうにも理解ができなくて。 ただなぜか、私の心臓をそっとギュッと、つかまれた様な気がした。 『正直言って私が働かなくても主人の収入だけで充分に暮らせるの。  娘の誉(ほまれ)にも恵まれて幸せだと思う。不満なんて一切無いの。  でもね、結婚してからの私は…  "堂本さんの奥さん" "誉ちゃんのママ" でしかなくなった気がして、  それである時ふと思ったのよ。  あれ?堂本百合子って、自分ってどんな人間だったっけ?って、  勿論、堂本の妻であり、誉の母である事は私の誇りで、それも私。  それで充分。家族に尽くせるならそれだけでもいいはずなのに。  可笑しいわよね。  自分自身を持っていたい、自分だけの自分を感じていたいなんて』 少しうつむいた百合子さんの手を、私はそっと握った。 百合子さんはいつも明るいからちょっとびっくりしたけど、 今は無条件でこの人の味方になろうと私は思った。 でも、 『ごめんなさい、百合子さん、私、あんまりわからない…  グスっっ、ううっ、、』 『なんで木崎ちゃんが泣くのよ~』 『だって百合子さん、私なんかにちゃんと話してくれたのに、  私も何か言ってあげなくちゃと思うのに、  私の頭じゃ何て言ってあげていいかわからなくて…』 彼女は私が握ってあげたはずの手を優しく握り返してくれた。 『木崎ちゃんはもうずっと前から私の力になってくれてるじゃない。  ここには毎日木崎ちゃんが居て、沢山お話しして一緒に仕事頑張ってさ、  それだけで充分。木崎ちゃんは居てくれるだけでいいのよ。  木崎ちゃんと居るとね、ああ、これって私だ、今、私は私だ!って思えるんだよね。  そうすると不思議とね、主人や娘と家族で良かったって、改めて思えるんだよね』 『そうなの…?』 『そうよ。だからそんな顔しないでよ』 『うん、わかった』 『で、ぶっちゃけここに来る前はね、主人も娘も知る人が居ないどこかで、  堂本百合子として何かしたいなって、ただ思ってただけなのよ。  そんな時にたまたまここの求人を見かけてさ、輸入雑貨も好きだし。  自宅からちょっと距離あるけど、ここなら私はただの堂本百合子だし。  よし、いっそ働いちゃうか!って感じ。笑っちゃうでしょ』 『うん、笑っちゃう、百合子さん意外とフワフワなんだね』 『そうなのよ、案外フワフワなのよ。フワフワなんだけどね、  自分で居られる場所だと思うと、一生懸命働けちゃうのよね。  そうそうそれからね、ここに決めたもう一つの理由、後で見せてあげるね!』 『別の理由?』 『そう!楽しみにしてて』 昼休みが終わり、私達は仕事に戻った。 その後の仕事は、私はどこか上の空だった。まあそれはいつもか。 私が彼女に何か言ってあげたかったのに、 結局、彼女が私を笑わせてくれた。 百合子さんっていう人は、そういう人なんだよね。 自分だけの自分を感じていたい、か。 この意味はやっぱり私にはわからないや。 でも今日、ハッキリ確実に、断固としてわかった事がある。 私、百合子さんが大好きなんだよね。 _________ その日の終業時、彼女が私にスマホを見せてきた。 『ねえねえ木崎ちゃん、これ見て!』 『なんですか?って、げ!?これってまさか!!』 『そ、私が見たここの求人募集。この写真に写ってるの木崎ちゃんよね!』 『うわああ~、そう、だけど、なにこのしかめっ面…  もっといい写真なかったのかしら!?  ってかなんでこんな写真を求人募集に載せるかしら!?  ってかなに人の写真勝手に使ってんのかしら!?  人事部!!あとで糾弾する!!』 『まあまあいいじゃない』 『良くない、ちっとも良くない!!』 『だって私、この写真の木崎ちゃん見て、  "なんかこの人に会ってみたいな~"って、思ったんだから。  結構決め手だったんだよ!』 『もう、やっぱり百合子さんってちょっと変!』 『まあね~!さ、今日の最後のダンボール片しちゃおっと!』 そう言って彼女は大きなダンボール箱を持って行ってしまった。 そんな彼女のうしろ姿を見て私は思った。 百合子さん、本当に百合の花みたいで綺麗だな… なんかこんな時の言葉、あったよね、なんだっけ? そうだ、確か、 立てば芍薬(しゃくやく) 座れば牡丹(ぼたん) 箱持つ姿は、百合(ゆり)の花… FIN 98-2 (´o`)п(´o`*)п(´o`*)п ****************************     【編集後記】 自分だけの自分で居たい、という感覚になると、 少し範囲が狭まってしまいますが、 自分らしく居たい、であれば、多くの人が思いますよね。 でも、自分らしさとは?とちゃんと向き合って考えたり、 また自分らしく居るために具体的に行動したりする人は、 意外と少ないのかもしれません。 もう少し発展させて、例えばそこで働く人た達で、 うちの会社らしさ、お店らしさって? をハッキリと言える人も結構少ないような気がします。 今、改めて考えているところです。 アースダンボールらしさってどんなだっけ?と。 やっぱり、ちゃんと言えるスタッフでありたいな、と思うんです。 今号も最後までお読み下さりありがとうございました。 m(__;)m ライティング兼編集長:メリーゴーランド

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