ヤンキー彼女が微笑む時■アースダンボール メルマガVOL88■2020年6月号

母は強し。 多分、いや絶対そのはずなんだと思う。 だけど私は気が弱い。 母親になった今でも、気が弱い。 でも、あの子は私よりもずっと強く純粋だった。 ダンボール箱を持っていた、ちょっとヤンキーな女の子。 (´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п ************************************************** あれはとても風が強くて寒い日だった。 私は一歳になる息子を抱きかかえてバスに乗る用事があった。 寒いね~、早くバス来ないかな~、ね、と私は息子に話しかけた。 息子は機嫌よく笑っていた。 バスが来て乗り込むと、車内は少し混んでいた。 "こんな混んでる中でこの子がぐずったらどうしよ・・・" いつも私はまずそんなことを考えてしまう。 なんとか座りたいと思い車内を見回すと 一つだけ、二人掛け席の通路側が空いていた。 私は『すみません』と言いながら人をかき分けて席に向かった。 そしてなぜこの席だけ空いていたのかが分かった。 窓際には、、、 めっちゃヤンキーみたいな高校生くらいの女の子が、 めっちゃイヤホンから音洩れる大音量で音楽聞いて、 めっちゃ不機嫌そうな顔で窓の外を見て座っていた。 そしてなぜか折り畳んだダンボール箱を持っていた。 "誰もここに座んなオーラ"が私には見えた・・・気がした。 私は席の前で立ち止まってしまったが、それも逆に不自然だ。 数秒経ち、その女の子がチラっとこっちを見た。 一瞬だけど、抱いている息子に視線をやったように見えた。 そして彼女は片耳のイヤホンを取ってこう言った。 『空いてんだから座りゃいいだろ』 彼女はまた窓の外を向てしまった。 言葉使いはいいとは言えないが、どうぞと言っている・・・ 『あ、ありがとうございます』そう言いながら私は座った。 "私、なんでお礼言ってるんだろ・・・?" すると彼女はもう一度息子に視線をやった。今度はわかった。 そしてほんの少しだけ彼女の口元が緩んだような、気がした。 彼女はまた窓の外を向いてしまった。 (´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п ************************************************** 停留所をいくつか過ぎ、私の予感は的中した。 息子がぐずり始めてしまい、あやしてもあやしてもダメだった。 息子の泣き声は車内中に響いていた。 世間一般ではこんな風景はごく普通の事だとわかってはいる。 でも気の弱い私は"迷惑なんじゃないか"が勝ってしまう。 私は、次の停留所で降りてしまった・・・ ああ、この停留所周りになんもない・・・風強い、寒い、 次のバスまで30分・・・はあ、、 独り言をぶつぶつ言いながらうつむいていると、 『ねえ、ねえあんた!』 という声が後ろから聞こえた。振り向くと、 あのヤンキー彼女が立っていた。彼女は続けてこう言った。 『ねえあんた、なんで降りたんだよ。ここ、あんたの目的地じゃないだろ』 彼女の眼は怒っているようだった。怒る?なぜ・・・? 『え、あ、あの、えっと、この子が・・・』 『ああ?この子がなんだよ!泣いたから降りたってのかよ!』 『だ、だって、みなさんに迷惑・・・』 『ばっかじゃねえの!!』 『ば、ばかって、、、だって・・・』 『だってもなんもねえだろ!!  こんな寒いなんもねえとこでその子が風邪ひいたらどうすんだよ!  それより大事な事があんのかよ! 迷惑がなんぼのもんだよ!!』 私は黙ってしまった。少し混乱もしていた。 バス混んで、子供泣いて、迷惑で降りて、ヤンキー女の子に怒られて。 でも一つだけ理解できたことがある。 この子、私の息子を心配してくれている。 ____________ 『もういいよ』そう言いながら彼女は私達の風上に立ち、 持っていたダンボール箱を風に向かってかざした。 『な、、なにやって・・・?』 『ああ? なにって、風よけだよ、風よけ』 大きくないダンボール箱だけど、幾分風当たりが弱まった。 『あ、ありがとう・・・』(・ω`・、) 『べつに・・・』( ̄△ ̄) しばらくして彼女は『イマイチ箱が小さいな』と言い、 箱のつなぎ目をビリビリ破り、面積を広げた。 『これならいいな』( ̄ー+ ̄) 風当たりは更に弱まり、暖かささえ感じた気がした。 彼女は時々振り向いて息子にだけ話しかけてくれた。 『どう?ダンボール、あったかいか?』とても優しい口調で。 息子の機嫌も良くなり時々ダンボールに手を伸ばして 『だ~んだ~ん、ぼ~う~、ぼんぼ~ん、、』と声を出して喜んだ。 いつの間にか30分が過ぎ、次のバスがやってきた。 彼女はそそくさとダンボールを畳んで歩き出した。 『ねえ、バス、乗らないの?』 『ああ?私の目的地、次だから。もう歩いていくからいい』 そう言ってスタスタ行ってしまった。 私が乗ったバスが歩く彼女を追い越し、彼女は見えなくなった。 __________ それから数日後。 彼女にもう一度会いたいと私は思った。ちゃんとお礼を言わなきゃ。 唯一の手掛かりはダンボール箱に印刷されていたロゴだけだった。 『(株)YAJIMABARAユニフォーム、だったかしら・・・』 ネットで調べ、私はその住所へ息子と行ってみた。 『あの、すみません・・・』 『はい、いらっしゃいませ~』40代くらいの女性が出てきた。 『あの、人を探してまして、高校生くらいの女の子なんですが、  その方がこちらのダンボール箱を持ってたもので・・・』 『え? あ、それ、多分ウチの娘だと思いますけど、、、  娘が何かご迷惑でも・・・?? すみません、、』 『いえ、違うんです。そうじゃなくて。。。』 『もう、あの子ったら・・・  派手なカッコして不機嫌顔でどう見てもヤンキーでしょ。  この間もね、お客様がダンボール箱だけ用意してって言うから  たまにはお店を手伝いなさいって、箱を持って行かせたんですよ。  そしたら約束の時間を30分も遅刻するし、  持って行ったダンボール箱も破いちゃうし、  理由を聞いても何も言わないしはぐらかすし、  まったく何を考えてるんだか・・・』ε=(・д・`*) 『30分?ダンボール箱? あの、それ、多分私のせいです』 『ええ・・・?』 ____________ 私はバスでの出来事を彼女の母親にお話しした。 あの時、娘さんが手伝いを断っていたら、 ダンボール箱を持っていなかったら、 娘さんが優しい女の子じゃなかったら、 今頃、息子は風邪をひいてしまっていたかもしれない、と。 娘さんは今、家にいないという事で私は失礼した。 帰りのバス停へ向かう途中、小さな公園があった。 天気も良く、小さな子たちが沢山遊んでいた。 ふと見ると・・・、子供たちに交じって彼女が居た。 ヤンキースタイルじゃなかったので一瞬わからなかった。 あの時の箱より大きいダンボール箱で子供達と遊んでいた。 子供達も『おねえちゃん、おねえちゃん』と楽しそうだった。 ヤンキー彼女とは別人に見えるくらい、かわいらしかった。 私はそっと近づいて彼女に声をかけた。 『ねえ、この間はありがとう』(*´v`*) 『あ・・・・』(〃゜д゜〃) 何かまずいところを見られたかのような、はにかんだ顔だった。 『子供、好きなんだね。今日もダンボール箱持ってきてるんだね。  それから、その、今日はおしとやかな洋服なのね・・・』 『あ、うん。子供ってさ、ダンボール好きみたいだから。  あの時はたまたまダンボール持ってただけ。  でもその子が喜んでたから、そうかなって思って。  ウチ、ダンボール箱山ほどあるし。  それにあのカッコじゃ子供も子供達の親もビビるし』。 『ふふ、この子がダンボール大好きって、私もあの時知ったわ。  そうだ、この子ががもう少し大きくなったらダンボールで一緒に遊んでくれる?』。 『え!?、ああ、うん、もちろん』(´∀`〃) 『ふふふ、約束ね』(*´∀`*) FIN (´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п(´o`)п **************************************************     【編集後記・へんしゅうこうき】 もう数ヵ月も前の事です。強風が吹きすさぶ中、 何もないバス停でお年寄りが一人寒そうにバスを待っていました。 それを見た時、何故か少し切なくなって、 "こういう時、ダンボールじゃ何の役にも立たない"と思いました。 その後考え続けて、当たり前の簡単な答えにたどり着きました。 "そっか、ダンボールが何もできないんじゃなくて、 ダンボールが何の役に立つかは人の心が決めるんだっけ" と。 このメルマガを初めてもう足掛け8年になりますが、 登場人物にお礼を言いたくなったのは今回が初めてです。 彼女のような優しい女の子がいてくれて良かった。 ありがとう(〃´∀`) 最後までお読み頂きありがとうございました。 m(__;)m 6某日 ライティング 兼 編集長:メリーゴーランド ______________________________ ☆☆ 第三回ダンボール川柳大会開催のお知らせ ☆☆ 誰でもお気軽にご参加OK! 段ボールに因んだ句(575)なら何でもOK! モチロン豪華賞品(ギフトカード1万円、5千円、ほか!)付き! 下記応募ページよりご応募下さい https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSef9LLS-oet4nrIzgpz3GUcAbT3t3l-ZzFAZ0nfdY7nOdviVQ/viewform 6/30ご応募分まで有効。お一人様10句までご応募頂けます。 ご応募お待ちしてます!! 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